161.呪言士

「久しぶり、ジーナ姉さん」


「久しぶりー! 何十年ぶりかしら!」


 謁見が終わりブルースの部屋に入る一行。

 久しぶりに六人が揃ったが、オレンジーナ感覚ではブルースに会うのは何十年ぶりらしい。


 オレンジーナがブルースに抱き付くと、今度はローザ、エメラルダ、シアンがオレンジーナに抱き付く。

 シルバーは少し悩んだのち、空気を読んで抱き付いた。


「それにしても早かったね。アンソニー陛下へいかは簡単に許可してくれたの?」


「ええ、すぐに手紙を書いてくれたわ」


「そっか。それにしても真正面から来るとは思わなかったよ」


「ブルースに会うのにやましい事はしないわ」


「そっか。それでギーゼラ皇后のスキルはどうしようか」


「あ、それならもう調べたわ」


 丸いテーブルを囲み、椅子に座り話しを始める。


「結論から言うと、聖女セイントではなかったわね」


「ええっ! じゃあスキル鑑定の儀はウソを言ってたって事?」


「そうとも限らないわよ? ギーゼラ皇后のスキルなんだけど、聞いた事が無いものなのよ」


「ジーナ姉様が知らないスキルですって? それは一体何ですの?」


呪言士ワードクリエイターよ」


「「「呪言士ワードクリエイター?」」」


 聞いた事もないスキル名に、一同は口をそろえて驚く。

 実は過去に数名居たのだが、百年ぶりに現れたスキルなので誰も知らないのだ。


「なにそれ? 聞いた事ないけどどんなスキルなの?」


「それが分からないのよローザ。一応使える技は書いてあるけど、どれもこれも意味が分からなくって」


「どんな技が使えるんだな、ダナ?」


「一つ目は『真実』、二つ目は『虚構』、三つめは『脚色』よ」


「確かに意味が分かりませんわ。呪言士ワードクリエイター聖女セイントに共通点はありませんの?」


呪言士ワードクリエイターというスキルを検索しましたが、該当するスキルは見当たりませんでした」


 エメラルダの疑問にシルバーが応えるが、やはりスキル自体が珍しいため、過去の記録にも見当たらない様だ。


「レベルは高くないけど、どんなスキルかわからないから注意が必要ね」


 オレンジーナの意見以降、これといった案が出なかったため解散となった。

 翌朝には早速エリヤス大公に面会し、呪言士ワードクリエイターの話しを知るのだが、やはり聞いた事もないスキルに驚いている。


「わ、呪言士ワードクリエイター? すまないがそれはどんなスキルなんだ?」


 国の重鎮がコレなのだから、ブルース達が知らなくても当たり前だ。

 詳しいスキル内容はわからないが、とにかく聖女セイントでない事が判明したため、今後の計画を練り始める。


 しかしオレンジーナは教会の視察という仕事があるため、一旦ここで別行動となり、ブルース達も皇帝に呼ばれているため作戦を練れないままとなる。

 一体何の用だろうかと皇帝の執務室に入ると、なんとおしゃべりをしたいだけだったようだ。


 てっきり何か頼まれるのかと思っていたら肩透かしを食らう一行。

 

「ところでローザ嬢とエメラルダ嬢、シルバー嬢は婚約相手がいるのかね?」


 油断していたらいきなりぶっこんで来る皇帝。

 どうやら本題はこれだったようだ。


「えーっと私はその、婚約者はいませんが、その、ブルー君と……」


 珍しく顔を真っ赤にし、伺うようにブルースを上目遣いに見るローザ。

 同じくブルースも顔を真っ赤にしているが、全く否定しな上にチラチラとローザと目線を合わせている。


「おおそうか! それはすまんすまん。で、エメラルダ嬢とシルバー嬢はどうなのだ?」


「私はまだ成人しておりませんので、婚約者や恋人はおりませんわ」


「私はマスターに仕える身ですので」


「そうかそうか! ではフリーなんだな? 我が国の王子などはいかがかな?」


 やっぱりそう来たか~と思える前振りだが、エメラルダは貴族とはいえ子爵、シルバーに関しては平民の扱いだ。

 しかも他国の人間なので、簡単に返事など出来るはずがない。


「身に余るご提案でございますわ。しかしまだまだ親の庇護下にある身なので、その話しは両親にして頂きたく存じますわ」


「私はマスター以外に仕えるつもりはありません」


「うむうむ、身持ちが固いのは良い事だ。まずは本人達に会ってみてくれ。おーい」


 皇帝が手を三回たたくと、執務室の右にある控室から三人の男性が現れた。

 恐らく年齢は十五から二十前後、一番年上は端整な顔立ちで知的なタイプ、次はとても愛嬌のある笑顔をしている、三人目はひと際背が低くオドオドしている。


「この三人の中から好みの者はいるか? 出来れば二人とも我が国に嫁いでほしいのだが」

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