146.六人の勧誘

 地面に降り、直ぐに戦闘を開始するのだが、全員が手加減なしで戦っている。

 一般兵は殺さないようにするはずだが、理由は一目見てわかった。

 全員の目が繊維なのだ。


 先ほどのような乞食や奴隷みたいなボロではなく、しっかりと鎧を纏っている。

 鎧も間違いなく敵国の物だ。

 一万以上の敵兵がそうなので、敵国では一体何が起きているのだろうか。


「手加減しなくていいのはストレス無くていいけど、何でこんな事になってんの!?」


「口を動かす暇があったら手を動かして下さいまし! 何なら私が一瞬で終わらしてさし上げても良いですわよ!?」


「ヤダ! さっきまでの鬱憤を晴らすんだから!」


「イヤなんだよー! 気持ち悪いんだよ、ダヨー!!」


「これほど大量発生しているとは……まるでゴッキーの様ですね」


「シルバーやめて。本当にそう見えてくるから」


 ブルース達は思ったより普通に戦っていた。

 剣で斬り拳で殴り、魔法を放ち銃を撃つ。

 しかしシアンだけが違っている。


「普通の目になるんだよ、ダヨー!」


 両手で耳を押さえ、怯えながらも命令すると、数名の繊維の目はグリグリと回転すると繊維が無くなり真っ黒になる。

 そして普通の瞳が現れた。


 とはいえ人間に戻るわけではなく、ただ目が元通りになっただけだ。


 シアンはそれを一番望んでいたのだろう。

 それ以降は魔女ウィッチの弱い……強くなった魔法で串刺しにしている。


「シアンの新しいスキルってなんだろう」


「何だろうね! なんかスッゴク便利そう!」


「敵を倒し終えたら、ジーナ姉様に聞けばわかりますわ」


 会話をしながら繊維目を倒していくが、三十分足らずでほぼ壊滅状態になった。

 大量の死体をかき分けて先に進むと、やはりそこには五人の姿が見える。


「いよぅ久しぶりぃ! 元気にしてたかぁ~?」


 少し気の抜けた喋り方をする中年男性が石に腰かけている。

 髪は肩より少し長めであちこちが跳ねるほどクセが強く茶髪、歳は三十から四十。

 まるで久しぶりに友人に会うようなテンションだ。


 中年男性の周りには漆黒鎧が地面にあぐらをかき、背の高いおかっぱ女性は隣の意志に座りお菓子を食べ、ドワーフは地面に寝転がり、騎士気取りの若者は腕を組んで仁王立ちしている。


「あーあんた達! やっぱり敵なのね! それにこいつ等は何なのよ一体!」


 ローザが大声で五人を指さす。

 横から繊維目が襲ってきたが、目を逸らすことなく飛び蹴りで頭を吹っ飛ばす。


「おいおい嬢ちゃん、俺たちゃーアンタらを誘いに来たんだぜぇ?」


「おあいにく様、私達はあなた方の仲間になんてなりませんわ!」


 寝ていたドワーフが体を起こし、頭をかきながらエメラルダを見る。


「お嬢ちゃんは頭が固いのぅ。ワシらはなにも、ただで勧誘している訳じゃないんじゃぞ?」


 ドワーフに続いて、上半身だけ金属鎧を纏った騎士気取りの若者が口を開く。


「その通りだ。俺達はこの世界を根底から覆すつもりでいる。この戦争だらけの世界を、平和にすることが出来るんだ!」


 確かにこの世界は戦争で溢れている。

 八割の国が戦争中で、二割も内戦や貧困で苦しんでおり、むしろ戦争している国の方が安全な位だ。


「平和? リック博士と手を組んでいるお前達が、どうやって世界を平和にするっていうんだ!!」


 え? とローザがブルースの顔を見る。

 どうやらローザだけが気付いていなかった様だが、すぐに思い出した様で倒れている繊維目を見る。


「あの変態爺ちゃんの仲間じゃない!! あんなのと手を組むなんて死んでも嫌よ!!」


「酷い言われようだな」


 地面から黒い液体が溢れる様に湧き出し、人の形を作ると声を発した。

 黒い液体が地面に流れると、そこには茶色くなった白衣を纏った老人がいた。


「リック……博士!」


「久しぶりだな諸君。ん? そこのペガサスに乗った少女は初めて見るが、ほうほう? ほぅ! 天馬騎士ペガサスナイト、グリフォンナイト、ジズナイト? 騎乗召喚者ライディングサモナー? なんだそれは! もっと詳しく教えてくれ!」


 リック博士のスキルであるは賢者セージは、相手の情報を見る事が出来る。

 オレンジーナの依代よりしろの巫女と似ているが、情報量は依代よりしろの巫女の方が圧倒的に上だ。


「お前達は本当に面白いな! 会うたびに新しいスキルを見せてくれる!」


 興奮しているのか、右目だけの片メガネを持つ手が震えている。

 よろよろとブルース達に近づこうとするが、漆黒鎧に白衣を掴まれて立ち止まる。


「博士、落ち着くのだ。味方になる見込みは薄そうなのだぞ」


「んおお? おお~おお~、そうだな、確かにそうだ。うぉっほん、あー君達、クロスボーダー教は良いぞ? 我々のようなボーダーレスを神としてたてまつり、世界を幸せにしようとしているのだ」


「神だって? 神だから人間を勝手に改造していいっていうのか!!」


「当たり前だろう? 神が人を作るのだからな」


「か、神は人を作らないんだよ。神は、ただ見ているだけなんだな、ダナ」


兎人コニードゥの少女か。残念ながらワシは哲学者ではないのでね、議論をするつもりはないぞ」


 そう言いながらリック博士はシアンをまじまじと見て、そして目を爛々と輝かせている。


「まぁ~今回は大人しく引き下がるとするさぁ~ね。今度会う時にはきっと、俺達の言う事が正しかったって思うだろうしなぁ」


 チョイ悪オヤジは石から降り、腰に手を当てて背伸びする。

 他の座っていた者も立ち上がると、地面に大きな魔法陣が現れた。


「おりゃ~シャバズってーんだ。よろしくな」


「ワシはドワーフのエンヴェアじゃ」


 顔中ひげ面で背の低い年寄男性は、長い黒髪を後ろで纏め、ずっと険しい顔をしている。


「俺はブロンソン! 騎士だ!」


 濃い茶色の髪を軽く横に流し、鋭い目つきの若い男性は上半身だけ金属の鎧を着ている。


「我はワードナ。次に会う時は味方か敵か、楽しみにしている」


 全身が漆黒の鎧に包まれており、顔も完全に覆われているため少し声がごもっており、ヘルメットの横ラインから赤い目が光って見える。


「でもでもでも、出来れば仲良くしたいな。あ、私はアリアナよ」

 

 銀色のおかっぱ頭の女性、気が弱そうな顔つきで若く見えるが年齢はわからない。

 背は大きいが猫背なので小さく見える。


「それでは諸君、ワシ達に会いたくなったら是非ここに来てくれ」


 リック博士が小さな紙を投げると、魔法陣が光り六人の姿が消えた。

 シルバーが紙を拾うと、そこには「エージェイ農業都市の地下迷宮」と書かれていた。

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