108.実は人気者なんです

「その女を俺の妃にしたい」


 少し興奮しながらシルバーを指さして、レジナルド第二王子がそんな事をのたまった。

 ブルース、ローザ、シアンは思わずシルバーを見るが、シルバーはどこ吹く風だ。


 レジナルド第二王子の執務室はしばらく静寂が支配した。

 思ったよりシックにまとまったいい部屋なのに、今の空気との温度差が激しい。


「えっと、レジナルド殿下でんか? なぜシルバーを?」


「何を言っている、いい女だからに決まっているだろう!」


 確かに見た目は美しく作られている。

 それは戦場に出た際に人間の兵士に使い捨てにされないように、感情が入りやすいように作られているからだ。


 なので感情的には間違ってはいない。

 間違ってはいないが……アンドロイド、作り物だ。


殿下でんか、シルバーをまるで物のように言っていますが、シルバーは……!」


 思わずブルースも人扱いをしていた。

 その事に気が付いて言葉を止めたが、レジナルド第二王子は勘違いした。


「もちろん分かっている! お前は強い男だから何人も女をはべらすのも理解できる! だが、俺にもチャンスをくれ!!」


 全くはべらせていないのだが、考えてみれば姉妹以外で三人の女性と同居しているため、そう思われても仕方がない。

 ブルースにとっては不本意だろうが、シルバーという存在の説明の難しさが話をややこしくする。


「えっと、そもそもどうしてシルバーなんですか? 殿下でんかには他国の姫や、貴族の令嬢がいるのではありませんか?」


「ああ、沢山話が来ている。だがな、俺は背の高い強い女が好みなんだ!!」


 レジナルド殿下でんかの言い分はこうだった。

 ・背の高い女性が好み → シルバーの身長は百九十センチ 〇

 ・強い女性が好き → モンスター数万匹を一撃で葬れる 〇

 ・いつも一歩引いていて男と立てている → 主人の前を歩けないだけ ×

 ・冷静で状況判断も素晴らしい → 未来の機械だから 〇

 ・光に当たると光り輝く黒髪が美しい → キレイだが好みの問題? △


 などなど、シルバーが良いという事を説明されたが、確かにこの時代の令嬢には居ないタイプのようだ。

 だからといって簡単に渡せるわけでもない。


「シルバーってほんとにモテるわよね。街に行っても店のおじさん達がちやほやするし」


「だな、ダナ。お陰で美味しい物を安くしてもらえるんだよ、ダヨ」


「あれ? ローザもシアンも人気あるよね?」


「私達は人気なんて無いよ?」


「ブルース何言っての、ノ?」


 ローザは元気で愛嬌もあるため人気があり、シアンは愛くるしい姿で人気があるのだが、本人達は気付いていない。


「とにかく! 俺の所に来てくれ!」


「えっと、シルバーはどうなの? レジナルド殿下でんかの事好き?」


「マスターに捨てられでもしない限り、他の人に仕えるつもりはありません」


「すみません、やっぱりダメみたいです」


「ぐわー! なら俺の部下に――」


「それは前にもお断りしましたので無理です」


 ブルースもシルバーを渡すつもりはないので、かなりかたくなだ。

 それにしても殿下でんかでありながら命令しないあたり、過去に何かあったのかもしれない。


 その後も色々と交渉されたのだが、その結果なぜかブルース達は戦場に出ていた。


「ブルースは家を追い出されたとはいえ、元は貴族。戦場で俺と共に戦果を上げれば貴族に返り咲けるし、シルバーも貴族となり、俺との釣り合いも取れる」


 ブルース達の隣で腕を組み、高笑いをしているレジナルド第二王子。

 戦場に出される事に文句は無いようだが、なぜか身分の差を気にしていると勘違いをしていた。


 目の前では一万前後の兵士が敵兵と戦闘を繰り広げ、矢や魔法た飛び交っている。

 

「さあブルース! シルバー! 戦果をあげてこい!」


 王子の手前嫌な顔も出来ず、仕方なく黒い鎧を纏ってシルバーと共に戦闘に加わる。

 ローザとシアンも一緒に行くつもりだったが、レジナルド第二王子に止められた。


「お前達はここで待機だ。戦果をお前達に奪われてはかなわん」


「え~? 仕方ないなぁ。ブルーくーん! がんばってねー!」


「ブルースー! 怪我をしたら治してあげるんだな、ダナ!」


 軽く振り向いて手を振ると、目の前の敵に集中する。

 とはいえ今のブルースとシルバーが本気を出したら、それこそただの虐殺になってしまうので、一般兵士は殺さす無力化し、指揮官だけを狙う事にした。


「やり過ぎたらダメだからね?」


「了解です、マスター」


 味方をジャンプで飛び越えると、敵の真っただ中に着地する。

 足だけを狙いレーザーを発射すると、周りは立ち上がれない敵兵で一杯になる。

 走りながら奥深くに入るとドローンから連絡が入った。


 その指示に従い進んでいくとテントが張られた場所が見えてきたので、更に詳細な情報を提示させる。

 どうやら司令官はテントの中にいるようだ。


 テントを切り裂いて中をむき出しにすると、何なら軍議をしていたのか三名で話をしている。

 

「ここの指揮官は誰ですか?」


 もちろん誰も答えないが、見た感じ中央の中年男性の階級が一番上のようだ。

 来る途中で拾った剣を喉元に当てると、簡単に降伏してしまう。


 大きなドラのような鐘が鳴らされると前線は戸惑ったように戦闘を停止、そのまま小競り合いは終わってしまった。


「あ、終わったみたい」


「あっという間だったんだな、ダナ」


「……いや早すぎるだろ! 何なんだアレは!」


「今のブルー君とシルバーだったら、全滅させるって手もあったんですよ?」


「ブルースは優しいんだな、ダナ」


「そうか……背が高く強く優しさもある! やはりいい女だなシルバーは!」


 なぜか更にシルバー熱の上がるレジナルド第二王子だった。

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