69.王都でソレとの遭遇

 相手の剣の間合いになる前に槍で牽制しすきを伺っているが、王子の部下だけあって隙が無い。

 重装歩兵ファランクスの重さと攻撃力では隙を作れる相手ではないようだ。


「どうしたどうした! あの鎧は使わないのか!? ん!?」


 パワードスーツの事を言っているのだろうが、アレは本来一対一で使う物ではないのだ。

 シャルトルゼの時は命の危険もあったため使ったが、訓練で使えば大怪我を負わせてしまうので使えない。


「アレは……すみません、普段は使わないんです」


「なるほど、私では不足というわけか? ならば、ハァ!」


 一気に間合いを詰めてブルースの喉元に剣を突き出す。

 盾で剣を弾いて槍を振り回すが、向こうも盾で槍を防ぐ。

 ブルースは槍を捨てて剣に持ち替えると、相手は力いっぱい剣で盾を攻撃する。


「剣で私に勝てるつもりか! しかも私と同じ剣と盾を使ってか! なめられたものだな!」


 実際のところ、護りだけならブルースは鉄壁だ。

 しかし重装歩兵ファランクスは攻撃が苦手なので、相手を倒すための手段があまりに少ない。


 ブルースが相手の攻撃を全て防ぎ、逆にブルースは全く手を出せない。

 完全に膠着状態に入り、そろそろ周囲の者が止めようとした時だった。


「隊長! 街に正体不明の人型モンスターが現れました!!」


 一人の兵士が訓練場に駆け込んできたのだ。

 しかも不可解な事を言っている、街に・・モンスターが現れた、と。


「なに! ええい門番は何をしているのか!」


 近くでブルース達の戦いを観戦していたらしい隊長が言葉を荒げる。

 しかしそれを全力で否定する。


「違います! 門から侵入されたのではなく、突如として街中に現れたのです!!」


 その言葉に全員がどよめく。

 街の中、特に王都は聖女セイントの結界が張ってあるため、本来はモンスターが侵入する事は無いのだ。


 まれに意識の希薄な昆虫系や低級モンスターが侵入する事はあるが。


 王子が号令を出す。


「各員緊急出撃準備を整えろ! 各所へ連絡を入れて市民の避難の準備! デモンスレイヤーにも協力を要請しろ!!」


 各自が返事をする事なく行動を開始する。

 各部隊で集まり装備を整え、部隊ごとに出撃していく。


「勝負はお預けだ」


「ええ、まずはモンスターを」


 ブルースと対戦相手も準備を整えて街へと走っていく。


 街の中、貴族街や裕福な場所は被害は無いが、スラムが隣接する城壁近くの地区の被害が酷かった。

 すでに多くの兵士が倒されており、家屋や市民への被害も甚大だ。


 ソレ・・けだものの様な唸り声をあげ、次々と兵士を殺していた。

 建物の壁を四つん這いでかけ上がり包囲網を抜け、背後に回って襲い掛かる。

 四つん這いで姿勢を低くしているソレは、全身に包帯が巻かれて血がにじみ出し、包帯の隙間から見えるまぶたのない目玉と唇のない歯茎はぐきが異様に気持ち悪い。


「け、剣が通らない!?」

「嫌だ! 来るな、来るギャー!」

「やめっぐふっ、もうやめでぐ……ゴフ……」


 走り回りながら腕で剣を受け、そのまま剣を折ると拳で顔面を破壊する。

 あまりのおぞましい姿に兵士がしり込みすると、掴んでいる兵士の腕を握りつぶし、死なない程度に殴りまくる。


「状況は!?」


 どうやら総隊長が現れたようで、背後には沢山の兵士が付いてきている。


「だ、ダメです! 包帯に剣が防がれてしまいます!」


「包帯? 何を言っている、正確に報告しろ!」


 半ば混乱状態にある兵士達の中を抜けて、ソレを確認する。

 ソレは一人の兵士の肩を掴んで持ち上げ、すでに動かなくなった兵士をいたぶっていた。


「な!? なんだアレは!!」


 その声に気が付いたのか、ソレは手を止めて総隊長を見る。

 まぶたのない充血したむき出しの目玉がぎょろりと動き、持っていた兵士を手放すと地面に落ちきる前に総隊長に襲い掛かる。


「ぐおっ!? な、何という速さだ!」


 ギリギリで剣で受け止めたが、包帯の巻かれた手で剣を握られているので、身動きが取れなくなってしまう。


「総隊長!」


 他の兵士達が応戦するが、残念ながら他の者では相手にならないようで、剣がかする事なく倒されていく。


「め、滅茶苦茶だ! 何なんだコイツは!!」


 何とか総隊長が相手をするが、実のところ総隊長でも相手になっていない。

 倒されていないだけだった。


 剣は全て受け止められ、ソレの攻撃でジワジワと傷を増やし体力を奪っていく。

 ソレはまるで壊れにくいオモチャで遊んでいるようだ。

 そして遂に総隊長の左肩に包帯の巻かれた手が貫通した。


「ぐわぁ! せめて、せめて貴様を逃がしはせん!」


 必死に腕を掴みソレの重りとなる覚悟を決めた。

 だが無情にも腕を切り落とされてしまう。

 足かせにすらなれない不甲斐なさと、もう助からないという絶望から瞼をゆっくりと閉じていく。


 そして「ウゴァアアアアアアア!!」という声が鳴り響くと、総隊長は目を開ける。

 そして目の前で繰り広げられる光景に目を疑う。


「大丈夫ですか! これの相手は僕たちがしますので逃げてください!」


 強固な鎧を纏った巨躯な男の声。

 まだ大人になり切れていない声だが、右肩には大きなつつを担ぎ、背中には大きな箱、そして滑るように素早く動く足。


「ブルー君! そのまま捕まえていて!」


 革の部分鎧を身に付けた少女は銀色の長い髪をなびかせて、自身の身長と同じくらいの長さの大剣を振り回している。


「今なんだよ! あの瓶をぶちまけるんだよ、ダヨー!」


 兎人コニードゥの少女の言葉に反応し、戦っている二人はソレに向けて小瓶を投げつける。

 パリンと小さな音をたてて中身がソレにかかり、ソレは警戒して距離を取るために後方に大きくジャンプした。


「き、君たちは一体?」


 ブルースとローザ、シアンの三人が総隊長を護るように立っていた。

 

 

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