17.メインは別の場所

「さて、それでは護衛を頼むよブルース」


「はい! お任せください殿下でんか!」


 ジャレイ第三王子を魔動力機関装甲輸送車ファランクスの助手席に乗せ、てっきり使用人が数名付いて来るのかと思ったら、付いてきたのはメイドの二名のみ。

 荷物を積んでも余裕があるので、エメラルダとローザは後部座席に乗れた。


「今から行くのって自由貿易国トランポールだよね? どうして自由貿易を謳っているのに、戦争なんてするの?」


 ローザの質問にエメラルダが答える。


「トランポールは自由貿易を掲げていて、昔は誰でも自由に貿易ができたのです。しかしここ数十年は自国が好き勝手をする自由を掲げているの。だから自分たちの自由にならない国には戦争を仕掛けたようだわ」


「うえ、なにその国。ただの我がままじゃない」


 しかも貿易する商品の中には、盗賊などの盗品が平気で入っているため、他国は警戒し最近では一部の国以外とは取引がない。

 それでも国として成り立っているのは、裕福であり、小さな国を金で操っているからだ。


殿下でんか、こちらの戦力はこれで全てですか?」


「いやブルース、すでに国境沿いに本隊が展開し、防衛をしている。私が行く事で攻め込むかどうかの判断をするんだ」


 判断をすると言っているが、実質攻める事が決定しており、作戦も既に完成している。

 現地には副官という名の実質指揮官がおり、その者が指揮を執る。

 今回ジャレイが向かうのは『戦場に立った』という事実を作るためであり、『王子としての成果』を上げるためだ。


 なので精鋭が送り込まれている。

 甘いと思うかもしれないが、王子が王子らしく活動するために必要な事なのだ。


 国境までは三日で到着し、ジャレイ王子を司令部である大きなテントの前に送り届ける。

 どういった物に乗っているか連絡が入っていたが、実際に魔動力機関装甲輸送車ファランクスを見るとみんな驚いている。


 テントの中は流石に入れないようなので、ブルース、エメラルダ、ローザの三人はテントの前で待機となった。


「ねぇブルー君、この戦場をどう思う?」


 ローザが望遠鏡で敵陣営を見ながら、イマイチ意図がわからない質問をする。


「え? どうって、どういう意味ですか?」


「ローザさん、質問の意図がわかりませんわ」


「だからさ、確かにここにはゴールドバーグ王国の精鋭二千人がいるし、機動力の高い騎兵や魔法系、動きの速い兵士もいるよね?」


「そうですね、基本的な編成だと思います」


「ならさ、どうして敵には騎兵がいないの?」


「「え?」」


 ブルースとエメラルダも敵陣を見る。

 ここは平野であり地面もぬかるんでいない。

 少しは起伏があるが、騎馬が最も威力を発揮する場所といっていい。


 相手だってそんな事は承知しているはずだ。

 単純に兵の数を少なく見せるために隠している……にしては不自然に感じる。

 なにぶん三人には敵の情報がないので、ただ知らないだけ、という事かもしれない。


 そんな不安をよそに、テントの中では作戦会議がすすんでいった。


「うむ、やはりブルースの食事は美味いな」


「ありがとうございます」


 夕食を魔動力機関装甲輸送車ファランクスの中で取っているが、ジャレイ王子だけではなくエメラルダとローゼも美味そうに食べている。

 メイド二人は酒を調達中だ。

 

殿下でんか、質問があるのですが、よろしいでしょうか」


「なんだい? エメラルダ」


「敵の情報を教えていただきたいのです」


「敵の情報か……そうだな、敵の総数は約千五百名、騎兵を除いた歩兵・魔法部隊がメインって所だね」


「なぜ騎兵がいないのですか?」


「ああそれはね、ここから四日ほどの場所で大規模な戦闘が行われているんだ。だからおもだった戦力は向こうに投入されているから、こっちにはいないのさ」


「それですと、この戦場にあまり意味がないのでは?」


「そうでもないさ、向こうに余計な兵力が集まるのを食い止めているんだよ。向こうは向こうで負けられないからね、こちら以上に」


 どうやら騎兵がいない事は計算に入っているようで、改めて騒ぐ内容ではなかったようだ。

 戦に明るくない王子が言うのだから、副司令官などは重々承知の上なのだろう。

 三人は『余計な心配だった』と安心する。


 明けて早朝、敵に動きがあるという事で叩き起こされた。


『何事だ』


「は! トランポール軍が隊列を組み始めました。ジャレイ殿下でんかにもお伝えするようにと」


『そうか。作戦は副指令に伝えてあるから、予想外の事が無ければ私への報告は不要だ』


「了解しました!」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスの中からスピーカーを通して指示をしている。

 戦闘ともなれば完全な安全地帯など無いが、魔動力機関装甲輸送車ファランクスの中が一番安全だろう。

 

 ゴソゴソと後部座席から前に出て来る二人。

 助手席にジャレイ王子が座り、運転席にはブルースが座る。

 ふと見ると、エメラルダとローザ、メイド二人がすぐそばに立っていた。


 後部のハッチを解放し、四人を乗り込ませる。

 メイド達はジャレイ王子を後部座席に引きずり込み、寝起き状態の身だしなみを整える。

 その間にエメラルダとローザが助手席に同時に入り込む。


「せ、狭いよ!」


「ちょ、ローザさん、この無駄な脂肪を何とかしてくださいまし!」


「無駄じゃないよ!」


 助手席と運転席の間にはかなりスペースがあるので、何とかそこに収まったようだ。

 そして改めて前方を見ると、前からは歩兵部隊がこちらに向かって走ってきている。

 恐らくは能力向上の魔法がかけられており、その速度は人とは思えないほどに早い。


 対して味方は横に長く歩兵を置き、左右に騎兵が配置されているので、三方向から相手を囲むつもりなのだろう。

 後方には魔法部隊や弓兵が居るので、騎兵が敵を混乱させればさらに効果が上がる。


 戦闘が開始され、上手く敵を前、左右から挟み込み、敵の隊列は乱れていく。

 遠距離攻撃もよく当たり、前線は速いペースで押し返していった。


 だが、魔動力機関装甲輸送車ファランクスの後方から爆発音がした。

 司令部のテントが燃え上がり、その向こうからは沢山の騎兵が姿を現したのだった。

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