第六十一話 ハナ…奈落の底

 ぐーちーぱーくも好評で半年。元メンバーのロミとニーナの歌も相変わらず歌ってて楽しいし、苦手なダンスも少しまともになってきた。とは思うけど。

 それと同時にベスト盤に向けての収録。私と美玲ちゃんのツートップでの収録。


 なのだが、最近美玲ちゃんは家に戻ってこない。行き先は分かっている。カークンから電話がきて家に帰りたくないって……私が原因じゃないけど、とは言ってたけど、私と会っても口を聞いてくれないし、私以外のメンバーとも口を聞かない。

 一応リーダーになった私だけど……信用して欲しいし、信頼して欲しい。

 一緒に住み始めた頃はいろんな話をしていたのに。あの頃が懐かしい。あの頃はいがみ合いも妬みもなかったのに。


 歌もそつなくこなして、仕事さえ終わればいい……そんな状態の美玲ちゃん。センターで輝いてきた初代清流ガールズのトップとは思えない。


 由美香さんも変わってしまった。美玲ちゃんのように素っ気なくはないけど、やはり男の人を知ってしまったという感じは否めない。ちゃんと話は聞いてくれるし、私がリーダーで嬉しいとは言ってくれた。もう役者だけしっかりやってよぉ。


 悠里ちゃんは至って真面目すぎる。いや、真面目でいいのよ。すごい頼りになっている。裏で私を操ってる説があるほど。あとは他のメンバーと仲良くなって欲しいのが課題。


 大野ちゃんとまた最近話す機会が増えてきた。なかなかここ数年は彼女もバタバタしていたり、私も仕事で長くは話せなかったけど、私がリーダーとして色々とメンバー間の悩みを大野ちゃんに話せる機会。

 私はそれよりも大野ちゃんと二人で話せるのが幸せでたまらない。初めて彼女と出会ってエステしながら話をしたあの頃のように……。


 しかし、今日は何かと空気が重い。

「今日はあなたのお話をしたくて。あと、お客様を呼んでるわ」

 ……お客様? 誰だろう……。ドアのすりガラス越しに大きな黒い影。


 ……お義父さん!

「お疲れ様……ハナちゃん」

「今日はお義父様からご相談に見えて……」

 相談……と聞いて私はもうその時が来たのか、と。覚悟はできていた。ネットでは私の過去について調べている人たちがいた。


 私の過去の写真や、バンド活動、事故のこと。そして馨と結婚していたこと、籍はそのままだということ、子供の死産については触れられていなかった。そこはほっとしている。


 お義父さんは私の横に座ってお茶を飲み、一息入れてから話始めた。

「ハナちゃん、もうそろそろ……話そうかと思ってな。私がハナの本当の父親ではないとのことを」

 ……本当の父親以上に父親であるお義父さん。私の実家が喫茶店だということにして私を応援したい、ファンの人が集まる場を作りたいと言ったのはお義父さんだった。

 かといってお義父さんのせいにするわけではないけど……。

「ハナ、大野さんとお話ししたのだが……過去のことを話そう。店にも記者が入ってきた。もうネットには事故のことまで……有る事無い事まで。名前も出ている」

 大野ちゃんは新聞記事を出してくれた。

「タッキーが探してくれた過去の新聞記事、ネットでニーナとロミの元バンドメンバーが死傷したところまで辿りつき、森巣馨さん、妻の森巣花さんと書かれているの」


 ……。


 他にもいろんな記事や雑誌を出してきた。私だけではない。美玲ちゃん、由美香さん、悠里ちゃん、大野ちゃん……なんでこんなに一気に……。

「まだこれらは発売前だけど、私たちの活躍に良い風に思ってないやつらがマスコミに垂れ流して、もう歯止めが効かない……」


 美玲ちゃん……。

『結婚間近?! イケメンIT企業新社長と!学生時代からのお付き合い! 密会熱愛!』


 由美香さん……。

『ドラマ共演中の人気アイドル・梨岡輝矢と再び熱愛! 休憩中もラブラブ! その影に尊タケル氏や複数の俳優たちとの関係が明らかに!』


 悠里ちゃん……。

『売れなかった子役時代! 虐められていた過去! 際どい水着姿! 両親離婚、父親は大手葬儀会社KURATAグループの倉田亨社長! スマイル気象予報士の心の闇』


 大野ちゃん……。

『元ご当地タレント、現・敏腕アイドルプロデューサー中学生時代から枕営業させられていた?! 営業ママの無茶振り! 生き残りをかけたご奉仕!』


 大野ちゃんは両手で顔を覆って泣いている。お義父さんが心配して彼女の肩をさすっている。


 私は……

「子供にも大人気! おうたのおねえさんが既婚者?! 未亡人!! 元ビジュアルバンドボーカルという意外な素顔?!」


 ……。


 表紙には

『ご当地アイドル、失墜!』


「大野さん! 大野さん!」

 お義父さんが大野ちゃんの異変に気づいた。彼女は顔が真っ青で白目をむいて机に突っ伏した。


「大野ちゃん! 大野ちゃん!!!」

 私は慌ててタッキーに電話したがつながらない。スタッフに連絡したらタッキーが必死で週刊誌の出版社に止めようと出向いているらしい。

 だったら私も……!!!


 大野ちゃんは救急車で運ばれた。私はその時気づいた。彼女のカバンにマタニティマークがついていたのを。私たちには見えないようにつけていて、きっと電車に乗る時は出していたのかもしれない……。


 彼女も……必死になって……。


 美玲ちゃんも電話に出ない、由美香さんと悠里ちゃんは自宅待機。


 お義父さん……どうしよう。わたしはお義父さんを見た。

「ごめんな、ハナ……ちゃん。お店は今お休みしているのだが……昨日、トクさんに全て話した……」


 ……。  


「少し前にな、馨の写真を見て……ハナちゃんのお兄さんだって思いこみしててな。『ハナ』ちゃんが大好きなトクさんには本当に申し訳なくて……つい、つい話したばかりだったんだ。ごめんな」

 ……。


「トクさんは、なんて……?」

「放心状態だったよ……」


 わたしはこないだのライブを思い出した。その時の握手会で今度のファンミーティング楽しみにしているって。今回はツーショット写真会あるからすっごい楽しみって言ってくれてたの。


 ……。

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