第四十六話 ハナ…私の過去①

 いよいよ地域チャンネルイベントの日。私たちを育ててくれたレギュラー番組。地域の人たちと触れ合ったり、ロケもしたり、アシスタントもさせてもらってとても楽しかったな。


 もちろん今後もイベントは岐阜でもやるけど……これから東京での仕事が増えるし……残念だなあ。

 でも三年近く私たちはレギュラーやらせてもらったことはありがたいよね。地域の人しか見られない番組だったけど途中からネットでも見られるようになってもっと多くの人に愛されたこの番組。


 私は途中からだったよね。清流ガールズ入りが決まっていきなりお披露目になったのもこの番組。あの時のドタバタと驚きは今でも忘れない。


 ファンレターで

『ハナちゃんのおっちょこちょいなところが番組を和ませてくれているよ』

 って。そんなこと言ってくれるの、ここのファンの人たちだけだよ。

 東京の仕事につながらない。いつも美玲ちゃんの多能さ、由美香さんのセクシーさ、悠里ちゃんの頭のキレの方が重宝されている。


 今後はグラビアばかりだし、レギュラーと言ったらラジオのメインパーソナリティくらい。しかも地元での。


 厳しいってわかってるよ。うん。でもこうして前に出て何かできるだけでも奇跡、と思わないと。


 それに今度出すCD、私と美玲ちゃんメインなんだから。聞いてみたら私の声? って恥ずかしくなった。

 録音した声を何度か聞いたことあるけど……。

 美玲ちゃんは

「ハナ、すごいよ。なんで今までセンターじゃなかったのかって思うくらい。もうほぼセンターじゃん」

 って褒めてくれた。


 この歌が人気になったら私は胸以外で売り出せる……よね?


 私は先に美玲ちゃんに家に帰ってもらって、喫茶モリスに向かった。夜遅かったからBARモリスだ。


「おかえり、ハナちゃん。今日珍しく……」

 おとうさんの目線の先に、阿笠先生!飲んでいるのはストローが刺さってるからノンアルコールね。


「ハナちゃん、こんばんは」

「こんばんは……」

 おとうさんは外にゴミを捨てに行った。何かと私と先生を二人きりにさせたがる。


「今度のイベント、楽しみだねーって話してたばかりだよ。今日は新曲レコーディングだったよね? お疲れ様」

「ありがとうございます……」

 なんとなく距離を置いてしまう……椅子もひとつ開けて。


「やったー。他のファンの人からみたら嫉妬されそう」 

「特別、ですよぉ」

「あ、喋り方がハナちゃんだっ」

 阿笠先生の大きく笑う笑顔、好きだなぁ。ライブの時ニヤニヤしてみてるの知ってるんだから。


「そういえばさ……お昼にお墓参り行ってきたけど。お花があったよ」

「もしかしたら、タッキーかもしれない」

「タッキーも有名になったよなぁ。なんかちょっといい噂聞かないけど。ライブ会場の時はヘコヘコして大変そうだったし」

 そうよね。今では雑誌とかアイドル番組でいろんな有名人と話をして業界の中でも人気者なのである。


「そいや午前中にここに来て仏壇に手を合わせてくれた」

 おとうさんが戻ってきた。


「息子も生きてたらあの若者……トクさんと同じ歳だったかなぁ」

 おとうさん……。




 いえ、お義父さん。

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