第三十話 ハナ…美人も大変

 ライブ、握手会を終えた私たち。もう来週がファンミーティングだ。


 ライブ会場を後にして私と美玲ちゃんで家に向かう。ここ最近、あまり話をしてなかった。カークンの家に行くって言って家に帰らない時もあって。

 ……だめでしょ、勝手に会いに行くといけないって。


 美玲ちゃんは人気だから岐阜以外の東海ローカルの仕事も貰ってるし。

 由美香さんは演技がしたいということでローカルドラマ、悠里ちゃんはローカルCM、メンバーは少しずつ個人の仕事をもらってるのに……私はグラビアの仕事ばかりで……断っているんだけど。選んでる場合じゃないかなぁ。


 ようやく美玲ちゃんは今日戻るって言ってくれた。家に入っても無言状態で……。

「美玲ちゃん、足のマッサージしてあげるよ」

 私は家で彼女にマッサージをしてあげていた。最近やってなかった。彼女のスベスベでやらかい肌、肉付きに触れたい。美玲ちゃんは頷いた。


 マットレスの上に大きなタオルをひいてシャワーを浴びた美玲ちゃんは全裸でやってきた。

 ……彼女の全裸を見られるのは私とカーくんなんだろう。とてもぷるんとした上向きバスト、白くて綺麗な肌、くびれ、長い足、綺麗に揃えられた下の毛。


 って私変態……。だって美しいんだもん。じゃなくて……マッサージしなきゃ! 仰向けの時は流石に大事なところはタオルで隠した。

 そして温めたインドオイルを左手に受け取り、右手にもつけて美玲ちゃんの足先からマッサージする。足の爪先は水色の綺麗なネイル。彼女がデザインして自分で塗ったもの。わたしもやってもらった。ネイリストの資格を持っている。

 足は冷たく、ゴリゴリする。お仕事、大変だもの。


「もうすぐファンミーティングだね」

「うん。……」

 元気のない美玲ちゃん。脚を特に重点的にやってあげよう。


「ハナのマッサージ、本当に癒される……」

「ありがとう……すごくゴリゴリだよ」

「そうだね、脚だけでいいよ今日は」

 じゃあ、ということでまたオイルを追加して今度はうつ伏せになってもらって、ふくらはぎをマッサージする。


「……トクさんったらさ、もう完全にハナの虜よ」

「え?」

 美玲ちゃんからトクさんの名前が出てきた。


「トクさんのSNS、わたしのソロの仕事の感想もあるけどハナのことばかり」

「……そうなんダァ」

「そうなんだぁって、見てないんだ」

 美玲ちゃんもアカウント作ってエゴサーチしてるんだ……。

「まぁ見ない方がいいかもだけど」

「どういうこと?」

「だって『もっとはっきりしゃべれ』とか、『心から笑ってない』とか」

 わたしは笑ってしまった。美玲ちゃんは私が笑うのが不思議に思って顔を上げてこっちを見た。


「だってそれ、ファンレターにも書いてあった」

「トクさん、手紙書くの?!」

「うん。意外と字が綺麗だし。なんかね、こないだ初めてもらったけど握手会だけじゃ言えないからって。ここはあーしろ、こーしろ、いつも眠そうな目をしてるからホットアイマスク入れたからそれ付けて寝なさいとか」

「へぇー……」


 手紙もそうだけど握手会の時に

「もっと上を見ろ! 今度俺が後ろの方でペンライト振るからそれ見てろ」

「ヘラヘラ笑うな、心から笑え」

「本業を疎かにするな、しっかり寝ろ」

 って言うの。で、手紙にはレギュラー番組でのわたしのここのトークよかった、もっと聞かせてほしいとか、細かいところを見てくれたのか良いことたくさん書いてくれていた。


「わたしの時にはそんなことしてくれなかった……」

「……そうなんだ……」

 きっと美玲ちゃんは完璧だから指摘するところないんだろうなぁ。わたしはダメダメだから……。


「……わたしはさー、昔からなんでも出来て何やってもすごい、美玲ちゃんだからだもんとかね、顔も可愛いからすごいね、って褒められてばかりで……自慢になるけどさ」

 ……良いなぁ、私なんて何やっても不器用でダメダメで、可愛くないからそれだけで弾かれて……褒められたことは多くなかった。


「わざと手を抜いてもさ、すごいすごいとか過剰評価されて。可愛いってだけでホイホイ近づいてきて、うわべしか見てくれなかった。

 美人だから、可愛いからなんでも許しちゃうって言われるのが嫌だった。……そんなに大したことしてないのに、もっとすごい人いるのに可愛いってだけで前に出されて……クレープ屋の時だってわたしはペーペーだったのに可愛いからって……ベテランの先輩差し置いてメインにさせられて。裏ですごく言われて仲間外れにされて友達なんていなかった」

 ……美人さんもそんな悩みがあるのね……。


「ファンの人だって可愛い、可愛いって言うけど……トクさんもね。だけどハナみたいにこーしたら、あーしたらって言ってくれなかった。どうせできるでしょ? 的な。わたしだって出来ないこともあるしっ……」

 脚のマッサージも終わってやっぱり上半身もやろう。ガチガチだもん。


「でもね、カークンだけは違ったの。ちゃんと内面見てくれるし、あ、かわいいって言ってくれるけどーすごく厳しいのよ。ちゃんと指摘してくれるし。でもちゃんと褒めてもくれるけどぉ」

 ……またお惚気ですか? ハイハイとか思いながらも肩の辺りをゴリゴリ……。

「あああああーっ、いいっ!」

 と色っぽく言うから、あの時カークンとこの部屋でイチャイチャしてたときのエッチな声を思い出してしまう。

 ファンの人たちは美玲ちゃんがこんな声を出せる彼氏がいることを知ってるのだろうか……。


「ごめんね、ハナ。わたし妬いてた。でもファンの一人や二人……別にどうってことないわ。また新しいファン作れば良いし。カークンにも言われたけど、悔しかったらまたトクさんを振り向かせられるようにしろって。そうだよねー」

「きっとすぐに美玲ちゃんのところに戻ってくるよ……トクさん……」

 そうだよ、絶対そう。また美玲ちゃんのところに戻ってしまうよ。


「そうかなぁー? なんかトクさん、ハナにズブズブハマってそうー。あなたは鈍感よ。あんなに握手券を使ってずーっとハナの手を握って興奮しながらもずっと喋ってたし。まー半分はハナの胸の谷間見てたよね」

 ……やっぱり胸か……。

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