第二十六話 ハナ……ファン奪取作戦?!
やはり今読み返しても悠里ちゃんが書いた私のブログは恥ずかしい。でも次回もこのテンションでいかないと。
私たちは今、ファンミーティングの打ち合わせをしていてグループ分けされた人たちの名簿を見ている。
阿笠先生はもちろんのこと、実は私のおとうさんもいる。って身内!!!
あとは私のエステに来てくれてるお客様、私のファンの人も数人……あとは知らないなぁ。女の子の名前も多い。このメンバーのグループを引き連れていくのだからかなりプレッシャーなのよね。頑張らなきゃ。
「実は言いづらいんなけど、悠里ちゃんとハナのグループね、定員割れだったの。特にハナ」
えっ……!!! だから私の知らない人の名前が!
「他のグループを希望していた人たちが流れ込んでるから」
そんな……定員割れって! やっぱり私はまだまだなんだ。
「これはチャンスじゃないの? ハナ」
悠里ちゃんも自分自身のこともありながらも……チャンスって?
美玲ちゃんがキッ!と悠里ちゃんを見る。由美香さんも少し不安そう。
「自分のファンを増やすチャンスってこと。違う推しのファンと触れ合い、そのファンをいかに虜にするか……」
悠里ちゃん、さすが!!! そ、そうよね。他のファンの方と濃密に触れ合えるのも滅多にないし!
美玲ちゃんのところは定員オーバーよね。由美香さんのところも。
この2人のファンを私のファンにさせることはできるの???
「ファンの奪い合いはやめなさいよ。清流ガールズ全体を愛してもらう、たまには推し以外のことも知ってもらって、自分の推しプラスもう1人の子、他の子、全員にお金を落としてくれる! ファンは誰だけのものではないのよ」
……さすが大野ちゃん!! でもまたお金の話……。
「と言うことで運営の人が色々とバランスを考えて一部のファンをシャッフルして希望してない班に入れたらしいの、わざと。だからここで成果を出すように、ハナ! 悠里!」
「はい!」
「美玲も由美香も気を抜かないように!」
「はい!」
バランスねぇ。阿笠先生が応援してくれるだけで充分なのに。先生……何年も私のことを気にかけてくれている。もういいのに。嬉しいけど……うん。
美玲ちゃんは名簿を見返している。
「どうしたの?」
「ん……ちょっとね……」
とがっかりした顔。
「ハナの名簿見せて」
私は名簿を渡すと美玲ちゃんは何かを見てハッとする。
「運営もなにやってんだか。最初のファンミーティングなのにお金のことばかり優先させて。私のファンをがっかりさせちゃうじゃない……」
と名簿を返され、美玲ちゃんは部屋を出て行った。
たしかにそうだよ……人が溢れてしまって希望通りにならないのはかわいそうだけど、お金のことで希望通りのグループにしないなんて。
由美香さんもトイレに行くと言って外に出て行った。なんかピリピリしてる……。大野ちゃんはパソコンに睨めっこ。昨日もリンパマッサージしに来てくれたけど頭皮が固くて揉み解したっけ。
悠里ちゃんが私の横に座る。……最近彼女は私のところに来る。いろいろアドバイスしてくれるんだけど……。
「ねぇ、美玲の機嫌悪いの何故かわかる?」
「……なぜ?」
と私に名簿を見せてきた。
「この人。徳山さんと言う人」
徳山?
「美玲ちゃんの親衛隊のリーダー。めっちゃ金を落としてくれるから気に入ってんだよ、美玲ちゃん」
……どの人だっけ……うーん。
「今日ラジオ生放送、美玲が担当だからこの人来るから見てみない?」
「……だけど……なんで美玲ちゃんの親衛隊のリーダーを私のグループに……徳山さんも怒っちゃうんじゃない?」
すると悠里ちゃんはニヤッと笑った。
「ふふふ」
……その笑い方……。
「徳山さん、通称トクさん。まだ20代後半。仕事は不明だけどライブはほぼ参加、美玲ちゃんのラジオ収録観覧には毎回参加、時間にある程度自由がきく……自営業か実業家? 指輪はしてないから結婚はしてないってかんじ」
指輪まで見ているの……。
「そして、住んでる場所の住所みたらー駅近のタワマン!!!」
「タワマン!!!」
つい声を上げてしまった。大野ちゃんがびっくりしてこっち見たけど私は口を抑えた。タワマン……。
「金持ちね、独身貴族……美玲が一番気に入ってるみたいだからトクさんをハナのところに入れたの」
「入れた?」
「それくらい簡単よ……」
……簡単って……て、悠里ちゃん、自分のグループに入れればいいじゃん……。
「他にも数人美玲にお金落としてるファンを私のところに回したから。トクさんはあまりタイプじゃないのよ……」
……タイプで決めたのか。どんな人か知らないけど。
その日の夕方、美玲ちゃんと大野ちゃんがレギュラーラジオ公開生放送をしているのを見学と称して見に行った。
美玲ちゃんはあれから私と話してくれない。そんなにショックだったのかな。
もうすでに観覧席にはファンがいっぱい……。すると大野ちゃんが
「あなたたち2人も見学じゃなくて、ゲストとして出たら?」
とブースに入れてもらった。ファンがさらに近く見える。私の時よりも多い。すごいよ、美玲ちゃん。
そのファンたちに笑顔を振りまき、手を振る……。オーラが違うよ。
「ハナ、あの人。トクさん……」
とこっそり悠里ちゃんから耳打ちされて彼女の指差す方にいた派手な法被とハチマキで眼鏡をかけた人……。
あれ、あの時私に場所を教えてくれたあの人。
……私はなぜだかドキドキしている。あの人が、トクさんなんだ。
私はトクさんと目があった。
でも彼は美玲ちゃんしか見ていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます