第十七話 トクさん……待ち時間はひたすら長い
清流ガールズにはもう一人、
やはり23歳の
にしても子役経験者を入れるとは必死だな……。ダンスや歌やステージの特訓はしているだろうし、現場や芸能界のことは熟知しているから一からのずぶの素人よりも経費はかからない。
そんなことしなくても美玲ちゃんセンターでバリバリやればいいし、素人たちの集まりが面白いのだ。何が物足りない? 迷走してないか?
ライブには相変わらず毎週通ってる。トオルは子供が小さいから我慢してるとの事だが、来月はお許しが出たらしい。グッズでも買っておくか。新作のグッズでたし。
グッズを買うとその値段に応じて握手する時間が変わる。写真撮影できる時もあるがその枚数も同じくグッズを買う値段によって変わるのだ。
運営側も試行錯誤で回を重ねるごとに思考を凝らしているがとても良い仕組みだ。実に素晴らしい。
会って直接話すためにお金を投資したいから仕事を頑張れる。写真も一緒に撮りたい、そこにメッセージを書いてくれるから最高の最高である。
会えたらそれが活力になって仕事もバリバリこなせる。撮った写真をみてウハウハ。良い仕組みではないか。フハハ。
あのストーカー事件で写真会の回数が減ってしまったのが残念だがたまにやる撮影会、それに向けてさらに仕事頑張れる。
そうこうしてるうちにキンちゃんがニコニコしてやってきた。
「今日もたくさん買ったね、トクさん」
「まぁな。今日は友達に頼まれてて」
「……友達いるんだ」
「いるよ、いないと思ったんか?」
「あ、ごめん。そういうつもりじゃなくてね、僕はヲタ友はリアルな友達にいなくて。このライブ会場で会った人しかね……いないんだよ」
愛嬌いいやつで中立的なキンちゃんだったら友達に布教できそうなんだが。
「カミさんも親も呆れてるしさ……堂々とファンって言えないんや」
カミさん?!
「キンちゃん、結婚してるのか?」
「してるよー。言ってなかったけど。指輪は仕事の都合でできないからしてないけどね、あ、太ってはめられなくなった、が正解かも」
ケラケラ笑ってパンパンな指を見せる。……確か俺よりも若いらしいが、結婚してたのか……。
「あ、子供もいるよ?2人な」
「まじかよ」
「うん、まじ。結婚早かったし。2人ともやんちゃ坊主でさ。娘欲しかったけど、カミさんがもう嫌ーって。だから清流ガールズの子たちを娘のように思ってる」
「娘ねぇ……」
そうは思えないのだが……。俺にとって美玲ちゃんは彼女、て感じでしか見てないし。……たまにエロいこと考えて抜いてることなんて、キンちゃんに言ったらどうなるのだろうか。
ライブも終わり、握手会に移る。今日も可愛くて、全力で。ペンライトを振り応援した。毎日の筋トレのおかげで周りからも動きキレッキレだと褒められて嬉しい。好きな美玲ちゃんのときのコールもすっげぇ叫んだ。
相変わらず美玲ちゃんの列は長い。他のメンバーもそれなりに並んでるが全然違う。待ち時間のうちに枯れた声を潤す。会ったときに掠れた声は最悪だ。
新人の悠里ちゃんはまだ新人、てことで興味本位で並んでる奴が多いだろうがここからファンを獲得するまでどうなるのか、本人次第だ。
由美香さんは安定した人気。とてもスマートな対応でサバサバしてて神対応らしい。でも俺的にはああいう女は興味ない。全員と握手できるイベントで何回か手を握ったが、ファンでない人には冷たい顔をするのか、隣にいた由美香さんのファンとの態度の違いが見えて嫌だった。
あとハナ。ファンが来ない間のボーッとしてる感じかやる気なさを感じる。たまにファンが来ても眠そうな目は変わらない。
今日はちらほら来てるようだ。……あ、また来てる。あの男。
やたら背の高い、ライブ会場に不向きなスーツで現れる男。でも自分の背の高さをわかってて後ろの方でペンライトを振ることもなく静観してる男。長い時間握手してるということは、かなりの太客だな。
ハナはその彼との時だけやたらとデレデレしてる感じがするのは気のせいか。
「ハナちゃんのところで握手してる人、お医者さんらしいよ。少し話だけど、ハナちゃんとは前から知ってて応援してるって」
と、キンちゃん。……医者か、あいつは。医者とどんな関係だ、ハナ。
全てにおいておっちょこちょい、たよりない。踊りも下手。新人の悠里ちゃんに食われるぞ。
「トクさん、次だよ」
おっと、もう目の前に美玲ちゃん。目の前の握手してる男の背中越しにチラッと僕と目があって微笑んでくれた。
嬉しい。そんなサービスできるのは君だけだよ。本当に可愛いなぁ。
早く終われ、早く美玲ちゃんと握手したい。
そして目の前の男はスタッフに剥がされて(とっとと剥がされろ!)とうとう目の前には美玲ちゃん!!!
「おまたせー、トクさん!」
あああああーっ。美玲ちゃーん!
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