第十二話 ハナ…アイドルっていうのは2

 後日、私は清流ガールズのレッスンが行われているスタジオに呼ばれた。意外と、というのは失礼だがちゃんとしたスタジオで、大野ちゃんの事務所が借りているらしくて広くて綺麗なところだった。地元にもこんなところあったのか、わたしの知ってるスタジオは狭くて古くて……そんなところばっか。


 ドキドキしてドアを開けると大野ちゃんが真っ先に飛び込んできた。

「来てくれると信じてたわ」

 どうしてこうも目をキラキラさせれるの。私みたいな人に。だが異様な光景にすぐ気づいた。


 ん、なんか清流ガールズってこんなにいた? 5人だよね? 10人くらいいる。


 恵ちゃんと美玲ちゃんが私を見て驚いている。

「あれっ、ライブによく来てくれているファンの子じゃん!」

「リーダー、とうとうファンにまで手を出した……」


 あ、プロデューサーさんもいる。ライブ会場の後ろの方でいつもみていて他のファンの子からあれは大野ちゃんが子役時代から仲のいい人で彼と大野ちゃんが中心になって作ってるって聞いたわ。タッキーとか言われてるけど彼は私を見るとニコッと微笑んだ。馴れ馴れしい感じもするが……ロングで無精髭だけど普通におじさんじゃん。


「みんな、今日からもう一人研究生が増えます。ハナちゃんです」

 

「23歳。この中でも一番年上よ」

 少しざわつく。ざわつかないでよ……。複雑よ。わたしが一番年上。確かにメインの子達はアンダー20……他の知らない子達も? 下っ端のわたしが年上って……。


「ハナ、今日から研究生と共にレッスンを受けてもらって半年には舞台に立てるようにがんばってもらうわ」

「はい……よろしくお願いします……」

 研究生らしい子たちも私にお願いしますと言うが、違和感を感じた。


 あのセクシーオーラむんむんの由美香さんがいないのだ。ひと目見れば彼女のオーラは最強なのにこの部屋にいない。

「大野ちゃん、由美香さんは……」

「あれ? あーそうか。表の姿しか知らないもんね」

 表の姿?! すると、一人の女の子が手を上げた。


「あ、あのぉ……私が由美香です」

 ん、え? そ、その……あのロングウェーブのセクシーな彼女でなくて……。


 ボサッとした茶髪の三つ編み、薄い顔、どこかの中学校のジャージ……あ、名前に『嵯峨野』って書いてるから由美香さん!!!!


 他のメンバーも化粧してないからいつもと顔が違う。美玲ちゃんはお化粧してなくても綺麗だけどすこしきつめな顔。アイドルの時は柔らかいメイクにしてるんだわ、きっと。


「……ハナ、あなたも今日からみんなの前に出る時はアイドルのハナちゃんとして生きるの。あ、まだ研究生だからここで練習してデビューを他の研究生と目指して欲しい。研究生だからと言って手を抜いちゃダメよ」


 他の研究生、メンバーたちの真剣な表情……ドキドキする。でもある程度大野ちゃんとエステで仲良くなったし、大丈夫よね。うん。てかオーディションは……。


「で、ハナ。ダンスと歌は覚えた? こないだのライブで」

 急に大野ちゃんがキリッとした顔になった。そして彼女が手を叩くとスタジオ内に音楽が流れた。と同時に私以外のメンバーが踊りはじめた……。

 みんなの顔はアイドルのように華やかになりマイクを持つ真似をして……。


 私はその迫力についていけず立ち尽くしたままだ。……踊れないっ……。


 あ、ここからならなんとか……と思った瞬間に音楽が変わった! 違う曲?!


 みんな一糸乱れず踊る。

「ハナ、踊らないの? 歌わないの? 何のためのライブだったの? ただ突っ立ってただけなの?」


 ……どうしよう……無理だよ……口ずさんではいたけども、どうしても踊りは無理で……。



 ここから鬼のような特訓と厳しい地獄の日々が始まった。もちろんエステティシャンの仕事もしながら。

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