第九話トクさん…手と手

 キンちゃんが

「こいつ、トクさんっていうの。覚えてあげて」

 と、横から声をかけてくれた。お節介だな……名前は個人情報だから教えなくていい。俺から言うものだ! 

 すると女の子は両手を握ったままなかった笑顔でさらに握ってくれた。

「最年少の葉月です、よろしくおねがいしますっ!」

 まじかっ、15歳、15歳なのか? これが15歳の手の感触なのかっ!!!! 10歳下の子の手なんて触ったことないゾッ!!!


「ああああああああ」

 あれ、声が、単語が出ない……。そんな俺に対しても葉月ちゃんはニコニコ。(さっそく「ちゃん」呼びしてしまった俺)


「はいー次お願いしますー」

 スタッフに促され、両手が離れる。え、無常にも15歳の手はもう終わってしまった。その後、葉月ちゃんはキンちゃんとめっちゃ喋ってる。お前は美玲ちゃんのファンじゃないのか?! この浮気者!


 と、次は……由美香ちゃんだっけ。パーマがふわふわ、大人っぽい。いい香りがする……。手が伸びてきたが、俺は手汗が酷くてジーパンで拭いてから手を差し出すと、一瞬、え? て顔をする。と思ったらニコッと笑顔になって両手で握ってくれた。

「由美香です。はじめましてですよね?」

「いいいいいっ」

 こ、声が出ないっ! こちらも柔らかい、柔らかすぎる。けど冷たい。ネイルが当たる。綺麗なネイルをしてるが凶器だぞ! そしてセクシーな声。はうっ!!!

 言葉が出ぬまま、由美香ちゃんは少し困り切った顔で俺はスタッフに剥がされた。あまりタイプではなくてそこまで堪能しなかったが若い子の手はなんか気持ち良すぎる。


 はい、では次。なんだこの流れ作業。

「恵ですっ! 今度ライブで新曲やるので来てください」

 元気いっぱい、ショートカットでボーイッシュな……恵ちゃん。少し手が硬い。ぎゅっ! と握ってくれた。見知らぬ男にこんなにも握るのか。

「うううううう」

 またしても声が出ない……出ないっ。彼女はそんな俺に対してもニコニコっとしながら色々話しかけてくれて、うなずくのに精一杯だ。

「またね」

 スタッフに剥がされても、恵ちゃんは手を振ってくれた。俺ら初対面だぞ?! 警戒心なさすぎじゃねぇかっ。気をつけろよっ。


 そして次は、大野ちゃん。テレビで見たことがあるから、目の前にいることがすごく不思議な感じである。あの子役の頃の彼女と照らし合わせる。大人になったな……。

「はじめましてですね、見ない顔だもん」

「えええええええ」

「でも最前列でオタ芸してたでしょ? 新入りかしら。盛り上げてくれてありがとう! スッゴイキレッキレだったからまたライブに来て、お願い!」

 ものすごく距離が近いっ、近いっ!!! 大きな目をキラキラさせて……ああ、いい香りがするっ。さすが元子役ということもあってオーラが違うな、さっきまでの三人に比べて。

 他の三人に比べて剥がされるのが早いが、最後の最後まで俺の目を見てくれてた。この短い間にすごく俺の心をぐしゃっと鷲掴みするパワーの強さよ……さすがだ。


 そ、そして……とうとう、目の前に……。差し出された小さい両手。キラキラとした笑顔。くりくりとしたお目目。ふわふわの栗毛色のボブヘアー。

「こんにちは。はじめまして……ですよね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る