第4話 ケアサの街のマリア
師匠の家を旅立ってから長いこと時間が経ったような気がする。鬼人族の村でサイクロプスを討伐し、森の中ではホーンベアやホーンボア、グレートウルフなども狩った。
僕は魔族の大陸から翼を出して、人族の大陸へと飛翔した。魔族の大陸と人族の大陸はそれほど離れていない。しばらく飛翔していると人族の大陸が見えた。僕は浜辺に降り立ち翼を仕舞い、浜辺から森の中を歩いて進んでいく。そろそろ人族の街に出てもよいころだと思う。森を抜けると遠くに街が見えた。恐らく人族の街だろう。胸の高鳴りを抑えて街まで急いだ。
森を抜けると草原が広がりそこには街に続く道があった。街に向かってワクワクしながら歩いていると、後ろからものすごい勢いで馬車が走ってきた。
“あんなに急いでどうしたのかな?”
馬車の後ろには馬にまたがった男達が数人と、走っている男達が10人ほどいた。
茂みから突然弓を持った男達が現れ、矢を放っている。どうやら、待ち伏せしていたようだ。馬車はその場で止められた。関わり合いになりたくなかったので、茂みに隠れて見ていると、馬車の中から3人の鎧を着た男達が出てきた。
「貴様らは何者だ? この馬車が領主様の馬車と知っての狼藉か?」
馬に乗っている男達がにやにや笑いながら近づいていく。後ろから走ってきた男達も追いつき、馬車を取り囲むようにしていた。
「その馬車の中には領主の娘がいるだろう? 置いていけ! そうすればお前達は見逃してやる。」
「何をふざけたことを!」
鎧を着た男達が馬上の男達に切りかかったが、相手は馬上だ。分が悪い。1人切られ、また1人切られ、結局全員が切られた。男達は馬車に近づくと、御者を殺して中から1人の少女を引きずり降ろした。
少女は怯えて震えている。助けを求めようにも辺りには誰もいない。
「お前は領主の娘マリアだな? 大事な人質だ。俺達と一緒に来てもらうぜ。」
僕は無意識のうちに男達の前に飛び出していた。
「おい! 小僧! 何か用か? じゃまだそこをどけ!」
「・・・・・・」
僕は空間収納から無言で剣を取り出した。
「小僧やる気か? どうせ見られたんだ。生かしちゃおけねぇな! おい! 小僧を始末しろ!」
男達は僕を囲むように立ち、距離を縮めてきた。僕は素早い動きで相手の腕や足を切りつけていく。
「ヒィ―――――」
「こいつはバケモンだ!」
男達が悲鳴を上げて地面を転げまわる。偉そうにしていた馬上の男達が3人、僕に攻撃を仕掛けて来たが、その動きがあまりにも遅い。僕は相手の剣を2本の指で受け止めた。
「なんだと! 貴様は何者・・・」
『エアーカッター』で馬上の男達の首を撥ねると、足や手を切られて地面に座り込んでいた男達は恐怖のあまり失禁している。
「助けてくれ! 命ばかりは助けて・・・・」
僕は男達を縛り上げて、少女の近くまで歩いて行った。だが、少女は目の前で起こった残酷な光景を見て、気が動転しているようだ。
「怪我はありませんか?」
「近寄らないで! お願い! 助けて!」
「大丈夫。僕は敵じゃないから。」
僕の言葉で安心したのか、少女は気を失ってしまった。そのまま放っておくわけにもいかないので、少女を馬車にのせ、縛り上げた男達を歩かせ、門兵がいる場所まで連れていって、そのまま気付かれないように街に入った。
初めて見る人族の街だ。青い髪、赤い髪、緑の髪、黒い髪、様々な髪の色の人達がいた。しかも人族だけではない、耳の長いエルフ族、虎やウサギの耳や尻尾のある獣人族、髭を生やした小柄なドワーフ族が街の大通りを行き来している。
“やっぱり異世界だ!”
通りを歩くと屋台があったり、レストランがあったり、服屋があったり、金物屋があったりと、とても賑やかだ。ただ、気になることもある。すれ違う人達がみんな僕のことを見ている。引きこもりだった僕にとってはみんなの視線が辛かった。
「ねぇ。あの子可愛くない?」
「うん。チョー可愛いんだけど。」
「白髪って珍しいわよね?」
「とってもオシャレよね。」
師匠が言った通り、やはり僕は目立つ存在なのかもしれない。どうにか目立たないようにと道の端を歩くようにした。それでも、物珍しさには勝てない。僕はキョロキョロしながら街の中を散策する。
すると、突然街の中が騒々しくなり、兵士達が駆け回っている。誰かを探しているようだった。恐らく領主の娘を襲った犯人でも捜しているのだろう。
兵士達が数人、僕の姿を見ると近づいてきた。
「おい、そこの白い髪の少年!」
「僕のことですか?」
「そうだ! お前はどこから来た?」
“どうしよう。何も考えてなかった。”
「・・・・・」
「怪しい奴だ! ちょっと領主館まで来てもらうぞ!」
目立ちたくなかったので、言われるまま兵士達について行った。どうやら行先は領主の館らしい。領主の館は、他の家と違って敷地が広く建物も大きかった。庭は、芝生がきれいに生えそろっている。その庭の中央には少し豪華なテーブルがあった。そして、そこには、領主らしき人と領主夫人と娘が椅子に座っていた。その横に執事とメイドが数人立っている。
「エドガー伯爵様、連れてまいりました。」
「君かね? 娘のマリアを助けてくれたのは。」
「・・・・・・」
目立ちたくない僕は何も答えない。
「どうだ? マリア? この少年で間違いないか?」
エドガー伯爵に言われてマリアが僕の顔を覗き込んだ。すると、マリアの顔が見る見るうちに赤くなっていく。何やらもじもじし始めた。
「お父様。間違いないと思います。白髪に赤い瞳。この方です。お父様。」
「おお、君がマリアを助けてくれたのか。ありがとう。名前は何というのかね?」
「シンです。」
どうやら、盗賊の一味として連れてこられたわけではなさそうだった。
「シン君か。私はこのスチュアート王国で、ケアサの街の領主をしているエドガーだ。娘を助けていただいて感謝する。ありがとう。ところで、マリアが言うには君はすごく強いようだね。」
「いいえ。それほどでもありません。」
「謙遜する必要はないさ。なにせ、大人達10数名を相手に全員を討伐したんだろう。」
「・・・・・」
「シン君は歳はいくつかね?」
「はい。10歳です。」
「なら、マリアと同じ歳だな。どうだろう。マリアの護衛になってくれないだろうか?」
「・・・・・」
マリアは真っ赤な顔をして下を向いたままだ。
「僕は世界中を旅するつもりです。この街にも長くはいません。」
僕の言葉でマリアは少しショックを受けたようだ。
「君のその年で世界中を旅するのかね? 旅の目的は何だい?」
「修行です。」
ここで伯爵夫人が口を開いた。
「私、気に入ったわ。是非、マリアのお友達になって頂戴。この街にいる間だけでもいいのよ。」
「ところで、シン君はお金を持っているのかい?」
「いいえ。」
「なら、宿屋とか食事とか困るだろう? 暫くこの街にいたらどうだい。当然、お給料も出すよ。」
“確かにお金持ってないよな~。少しの間だけならいいかな。”
「わかりました。ただ、条件があります。」
「何かね?」
「僕は修行中です。ある程度自由な時間が欲しいです。」
「わかったよ。そこは配慮しよう。」
結局僕は、暫くの間伯爵の屋敷に居候することになった。何故か、伯爵家のみんなからは好かれたようで、食事も伯爵家の皆さんと一緒に取るように言われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます