第3話 つかの間の

 バセドウ病だとわかったとき、医師から「リスクがあるので妊娠は待ってください」と言われたばかりだった。


 B妻は一人目が無事に産まれる前に、一度妊娠していたものの流産していた。

 しかも再び妊娠するまでもかなり時間がかかっていた。

 だから、このタイミングで妊娠するとはA夫もB妻も思っていなかった。

 しかも妊娠しづらいと思っていたので、A夫もB妻も堕胎を考えられなかった。


 こうなると離婚をしている場合ではない。

 (なんとかA夫との関係を改善できるように頑張るしかない。できる限りやってみて、ダメだったらその時また考えよう)と、B妻は決心した。


 そして無事に二人目を出産した。


 物心がつき自分の意志がはっきりした一人目は、もはやA夫に少しも懐いていなかった。

 B妻は「連続子育て講座に一緒に通おう」と提案してみた。

 それまでにもB妻はちょこちょこ近所の公民館やAB1の通う幼稚園で開催される子育て講座に参加していたが、すべて平日昼間の開催で、男性が参加できるものが今までなかったのだ。

 今回、偶然見つけた講座は土日や平日夜にも開催されていてA夫も参加できる。A夫を誘うと、さすがに今の子どもとの関係をまずいと思っていたのか、A夫も講座を受けることを快諾した。


 (大丈夫。これでなんとかなる)とB妻は期待した。


 実際、連続子育て講座はとても効果があった。

 月に2度ほど、心理学にもとづいた、をわかりやすく解説され、10人前後の参加者たちと意見を出し合い気持ちを共有することで、A夫は落ち着いていった。

 参加者に男性が少なくて、講師にあてにしてもらえることも良かったようだ。

 数ヶ月におよぶ子育て講座が終わる頃には、いわゆる理想的な家庭が築けているのではないかと思うくらいに、穏やかな家庭になっていた。


 それでB妻は勘違いしてしまった。

 (子育て講座を受けたし、2人目の子だから、これですっかり子どもに慣れてくれたのだ)と。


 しかし、その効果は続かなかった。

 また怒声が復活した。


 B妻は不思議だった。


 子どもは2人目だ。小さい頃のあれこれなど、最初の子で体験済みのはずだ。

 しかも、1人目に比べておおらかな2人目は、夜中もよく眠るし泣きすぎない。B妻にとって2人目は、1人目に比べたらとても楽な子だった。

(なにをそんなにカリカリすることがあるのだろう?)


 バセドウ病は2人目AB2に影響することなく、出産後はB妻の数値も落ち着いていたが、またA夫をたしなめるが効果はなく泣き叫ぶ子供2人をフォローする日々が始まった。


 B妻にとっては一度体験したことを再びしているので、ガッカリしたものの、(まだ別の方法があるはずだ)と希望を持っていた。

 

 ただ、2人目の出産時に、A夫が「AB1が寂しいと言ったから」とB妻実家にAB1と一緒に泊まりこんだことで、B妻実家とA夫との関係が微妙になっていた。

 B妻も、B妻実家も、事前にA夫もAB1と一緒に泊まり込むことを知らされていなかったのだ。

 A夫自身は「AB1が望んだから」と、B妻実家に当然のように泊まっていたが、せめて事前に「泊まるかもしれない」くらいの話をB妻側にして欲しかった、とB妻は思った。

 B妻自身は、出産入院前に、B妻母の友達が話していたという「娘婿むすめむこが泊まって大変だった」という話をB妻母から聞いていただけに、もしA夫がB妻実家に泊まるという話を事前に聞けていたなら、確実にA夫がB妻実家に泊まることを止めていた。それでも泊まるというのなら、事前に「食事の用意などが増えて大変だろうけどよろしくお願いします」とB妻実家に重々頼み込んでおきたかった。


 しかしB妻が、A夫がB妻実家に泊まっていたのを知ったのは退院後で、入院中はA夫もB妻実家も教えてくれなかった。

 (それで入院中に来てくれたB妻母の様子がおかしかったのか)とB妻は今さらながら納得した。


 A夫がB妻実家で朝食や夕食を共にとるときに、B妻両親は、頭ごなしにAB1を怒鳴りつけるA夫を目の当たりにした。

 そのことで、B妻実家側から「A夫と子育てについてちゃんと話し合っているの?」と聞かれたB妻は、「私からは何年間も怒鳴らないでほしいと言っているし、話し合おうにも、どうしてか話し合いにならない。もし良かったらそちらからうまく伝えて欲しい」とB妻は答えた。

 しかしB妻にとっては、むしろこっちが聞きたいくらいだった。

 (だから離婚したいと相談したつもりだったけれど、両親には全然伝わっていなかったの?)と。


 B妻両親がそれとなくA夫に苦言してくれたが、そのことからか、B妻がB妻実家に頼るとA夫に嫌な顔をされ、今まで以上に文句を言われるようになった。


 B妻実家から食事に誘われ笑顔で参加しても、後からA夫はB妻実家を散々こきおろす。

 B妻はまた、(A夫は人としてどうだろう?)と思った。

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