爽快で活気に満ちた日本版『ニュージーズ』ー*ネタバレ含む

*演出のネタバレを含むので、観劇予定の方は観劇後にお読みいただければと思います。


そして、10月に日生劇場、11月に梅田芸術劇場で『ニュージーズ』が上演されている。


中止が2020年5月公演、発表がその1ヶ月前の4月ごろだったと思うので、本当にコロナに潰された一年半を乗り越えての上演である。


待望の日だ。


劇場前には若い女性達が多く集まり、看板やスケジュール、上演時間表などをスマホで撮影している。


みなさんマスクをされていて、大声で話す方も少なく、まだコロナ禍なのだな。。。と感じるが、やはり劇場前に活気が戻るのは嬉しい。


そしてロビー。


初演作品独特のこれから新しいものを観るというワクワクした熱気が心地いい。


客席に入ると、最前列が空いており、やはり緊急事態宣言は開けたとはいえ、コロナの影響は続いているのかと思う。


そして、開演。


冒頭、朝の薄暗さの中、主人公ジャックと友人クラッチーが小高い建物の屋上で佇む場面から始まる。


ここで印象的なナンバー『サンタフェ』が歌われるのだが、静謐な朝の雰囲気が美しい。


そして、主人公の京本大我さんと友人役の松岡広大さんの存在感の見事なこと。


特に京本大我さんは、『エリザベート』の儚いルドルフ像とは異なる逞しい存在感。


これから始まる作品を楽しみにさせる座長っぷりだ。


そして、夜明けとともに新聞少年ーニュージーズ達の登場だが、ここの演出が、とにかく見事。


先ほども書いたけれど、最前列が空席となっているのだが、当然にオーケストラボックスがあると思っていた位置からニュージーズ達がワラワラと登場してきて、客席の最前部を通って舞台に上がるのである。


その臨場感、迫力と言ったら。


客席の目線を登場人物、ニュージーズの視線と同じ高さにしてしまうのである。


この演出だけで、観客はニュージーズの世界に埋没することができる。


ミュージカルといえば額縁型、客席から舞台の四角に切り取られた額縁の中の光景を鑑賞する形式のものがほとんどだ。


例外として『キャッツ』のような作品もあるが、あれは専用劇場で客席の中に入った瞬間から、自分がジェリクルワールドに参加したことがわかる。


本作は日生劇場で、場内には事前にそのような装飾はなく、当然に額縁型の作品と思っていたこちらの裏をかく演出が見事だ。


さらにこの演出の見事なところは、コロナ禍での最前列空席を逆手にとっての演出でもあるということだ。


舞台が好きな方であれば、コロナ禍中の劇場で、最前列が空いているのを見て悔しくなった方も多いだろう。


この演出は、最前列が空席であるから成立した演出であると思う。


出演者が客席の最前部を通ること通ること。


最前列にお客さんがいたら、あんなに自由に通ることはできなかったろう。


コロナ禍の不自由な規制を演出の力で素晴らしい劇的な効果に昇華させているのだ。


さすが小池修一郎先生、日本のミュージカル界のトップを走っている方である。


この演出の仕掛けは舞台の上で明るく輝いているニュージーズ達が決して恵まれているわけではなく、社会としては底辺のあたりにいるということを視覚で表す効果もある。


彼らのいつも暮らす場所は舞台の上ではなく、下であることを視覚で表している。


劇中で、両親がいて家に食事が用意されている境遇が、彼らにとっては当たり前ではないという場面があるのだが、そこでの彼らは非感的ではなく、ではなく明るい。


だからこそ、そんな彼らが資本家の横暴で搾取されることに怒る場面に、客席の私達は素直に共感できるのである。


このニュージーズの若者達の群像を丁寧に描いたということで、この作品が京本大我さんというスターの座長芝居でありつつ、ニュージーズの若者達の群像劇にもなったという点も素晴らしい。


このニュージーズ達が、皆、イキイキしているのだ。


舞台いっぱいに広がっての群舞の際など、同じ振り付けでありながら、視線をやるそれぞれで、それぞれのニュージーズ達が、それぞれの表情を浮かべている。


場面として切り取るところを変えれば、それぞれのニュージーズ達の物語が始まる感じがするのである。


そして、群舞で驚いたのが、京本大我さん、松本広大さんといったキャストもしっかりそのアンサンブルの中で、歌い踊っていることだ。


通常の座長芝居の場合、主役は常に中心でスポットが当たり、アンサンブルはトーンを落とすものであるが、それがない。


京本さんも松岡さんも、そして加藤清史郎さんもニュージーズの一員として舞台上にいるのである。


この主役達も加わってのニュージーズの迫力が、舞台にうねりを作る。


そして、劇場を包んだうねりの中で主演の京本さんや松岡さんの場面となると、彼らの実力が劇場の熱気の中でさらに生き、物語が弾み続けるという相乗効果を生んでいるのである。


終演後にパンフレットを見たら、一人一人に名前が付いていた。


また、観劇後に検索してみたニュージーズ達のツイッター、インスタグラムでは、自分の役名を投稿に入れている方も多く、役に生きているのだと思った。


この作品は人気で即完売、当然にリピーターチケットもない。


何度か仕事の合間を縫い、ダメ元で前日の当日券受付ダイヤルに電話したが、繋がらず、お話にならなかった。


公演期間に余裕があり、劇場に通うことができたら、登場するニュージーズ達の個性を一人一人把握したくなるような感じだった。


次章『素晴らしい出演者たち』に続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る