第37話 ヒロインたるもの(キャサリン視点)

 あたしはずっと不満だった。


 みんなを惑わすあの女に制裁を加えてやろうと頑張って暗躍していたのに、どうしても邪魔が入ってしまう。部屋を掃除に来たフリをして盛大に汚してやったのにいつの間にか綺麗になっていたし、あんなに苦労して捕まえた毒虫だって処分されていた。あたしは腕を刺されて未だに腫れてるっていうのに!あー、痒い!クッションに仕込んだ針もすぐに回収されちゃったみたいだし!


 きっとあたしの美しさに嫉妬した他の使用人たちが邪魔しているのよ。それとも、すでに使用人たちもあの女に籠絡されているのかしら?


 しかも何をどうしたのか、エリオット様が侯爵家を出ていくことになったらしい。まさか、あの女に追い出されたのだろうかと思ったらなんと新たなラファエ公爵になるというではないか。メルキューレ侯爵家よりも格上の公爵家になるなんてすごいことよ。


 ……そういえば最近、エリオット様とよく目が合う気がするのよね。エリオット様はあの女と一緒にいることが多いんだけど、時々チラッとあたしを切ない瞳で見つめてくるの。


 絶対に気の所為じゃないわよね?だって、あんなに思い詰めたような顔をしていたもの。



 も、もしかして……。もしかする?



 やだ!どうしよう?あたしにはリヒト様という人がいるのに……。でも、もしそうなら将来は公爵夫人ってことよね?あたし、そんな強欲じゃないんだけど……求められるのなら女冥利に尽きるってものよね。


 うふふ、やっぱりあたしの美しさって罪なんだわ。


 そんな事を考えていたら、何か騒がしい声が聞こえた。どうやらリヒト様やルーファス様があの女の所に乗り込んだらしい。


 とうとうあの女が粛清される時が来たのかと、期待して後を追いかけたのだが……。





「────その男爵令嬢が女主人になりたいっていうならいっそルーファスが結婚してやれば?────」





 あたしが部屋の前についた途端、中からエリオット様のそんな声が聞こえたのだ。走ってきたから息が上がっちゃってその前後がよく聞こえなかったけど、ここだけはハッキリ聞こえたのだ。




 男爵令嬢って、あたしのことよね?まさかエリオット様があたしをルーファス様の妻に勧めるなんて……。



 そしてあたしは「はっ!」と気が付いてしまった。


 なにせエリオット様はまだまだお子様だ。もしかした、リヒト様やルーファス様とあたしの奪い合いをしていて、拗ねて自棄になったエリオット様は思わず心にもないことを言ってしまったのだろう。



 さらに「エリオット、きっさまぁ……」とルーファス様の怒りを含んだ声まで聞こえてくる。会話の全体の内容はよく聞こえなかったが、あたしの女の勘が訴えている気がするわ。




 今、あたしは奪い合いをされてるってね!



 だからあたしは、一触即発の雰囲気になっているであろうその場をなんとかするために部屋に乗り込むことにしたのだ。





「あぁ、みなさま!あたしのために争わないでぇ~っ!!」




 みんなの視線があたしに集まったのを肌身で感じた。その舐め回すような視線にゾクゾクとした快感が全身を走ってくる。あぁ、やっぱりこうでなくっちゃ!今のあたしは世界の中心よ!



 だって、ヒロインがいなきゃ物語は進まないものじゃない?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る