第33話 おもちゃじみた街

この街の地下には穴がある。深い深い縦穴だ。地球の真ん中まで通じていると言う者もいる。古来より必ず何者かがその穴を守り暮らしてきた。そのお陰でこの街は平穏を保てている。ではその穴は一体どこにあるのか。ごくごく普通の商業ビルの地下、しかし誰も地下への通路があることなど知らない。普段決して開かれることのない扉の向こう、何百段もある階段を降りた先にその穴は確かに存在している。


朝から頭が痛かった。気が付くと俺はデパートの前にいる。そして明らかに客が開けてはいけないドアを開けると向こう側には先の見えない程下に続く階段があった。俺は階段を下る。降りなければいけない気がするからだ。階段を降りきるとそこには深い深い穴があり、その傍らには4,50代くらいに見える男が一人立っている。

全くわからずに呆然としていると

「いい所に来てくれた」

男が急に声をかけてきた。馴れ馴れしくあまりいい気分はしない。

「あまりいい所には見えないが。というか変な事を言うようだが、俺はなぜ自分がここにいるのかわからない」

「お前がここに来たのも大いなる穴の意思か、穴の中から出てくる何ものかの意思だ」

何を言っているのかいまいちピンとこない。全くいい加減なものだ。

その時だった。穴の中から何やら黒々としたものが溢れ出てくる。

「なんだあれは」

「さぁな。とにかくあれが完全に出てきたらこの街はお終いだ」

「どうすればいいんだ」

「新たな穴が必要だ」

「どうやって穴を移す?」

「移すんじゃない。穴をもう一つ作るんだ」

「穴を作る?」

「穴は私が作る。お前はその穴を守れ。でなければこの街が終わるだけだ。どいつもこいつも死ぬ」

出来ればまだ死にたくはないな。親が悲しむだろうし。

「わかった、やってみるしかないみたいだな」

「よし。じゃあさっさと穴を作りに行くぞ」

一体どこに、と言う間もなく階段を駆け上る男。俺も上りながら下を見ると今も黒いものが溢れてきている。

息を切らしながらなんとか階段を上りきり建物の外に出ると、男が車で待っていた。

「どこに穴を作る?」

「思い当たる場所がないならお前の家の地下にでも作るしかないだろう」

俺が住んでいるのはごく普通のアパートだ、そんな所に穴を作れるものなのか。

「まぁとにかく行ってみて考えよう。案内してくれ」

俺の考えを見透かしたように男は言う。

部屋に着くと男は畳をめくりだす。

「一階で良かったな。これだけあれば十分だ」

畳を2枚めくった下に何やら模様を書き出し始めた。

内はほらほら、外はすぶすぶ

そして謎の呪文を唱える男。

しばらくすると深い深い穴が出来上がった。

「それで、どうやってこの穴を守ればいいんだ」

「簡単なことだ」

男はため息を吐くように言う。

「意思に従えばいいだけだ」

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