第2話 こどもおやじ

軌道エレベーターが完成し誰もが宇宙に行くことの出来る時代になってからしばらくが経つ。

しかしその裏に宇宙開発に人生を捧げた一人の男がいたことはあまり知られてはいない。

その男を知る者達は彼のことをこどもオヤジと呼ぶのだという。

それは決して悪口というわけではなく尊敬の意を込めて皆そう呼ぶのだ。

彼を知れば誰もがこどもオヤジと呼びたくなってしまうようなあまりにも純粋な好奇心によって行動する綺麗な瞳をした人物であったらしい。

こどもオヤジがそのようになったきっかけは彼がまだ実際にこどもであった10歳の頃、学校の先生からこんな話を聞いたことに起因している。

紙を42回折れば月に行ける高さに達するという有名な話である。

子供心にも俄には信じがたい話ではあったが、深い衝撃を受けたこどもオヤジ少年はいつの日か必ず紙を42回追って月に行くことを誓ったのである。

月日は流れ、飽くまでも紙を42回折って月に行くための計画の一つの段階として彼は軌道エレベーターの設計に関わることになった。

彼の天才的な発想がなければ実際に軌道エレベーターが完成することはなかったという。

そして次は42回折るに耐えうる大きさ、柔軟性、耐久性を兼ね備えた紙を研究している最中、こどもオヤジは突然の病に倒れることになった。

あまりにも早すぎる死であった。

しかし彼の純粋無垢に自らの興味に向かって前進せんとする心は私たちに多くのものを残してくれた。

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