第615話 勇者の休息 2

俺は冒険者ギルドで声をかけた三人の新米冒険者にパーティーに入れてもらうことができた。


声をかけたのは、決してやましいことを考えてじゃないぞ。


単純に狼を討伐に行くと聞いたからであって、純粋な心配からだぞ。


メアリーが「じゃ、この依頼を受けようよ」


「うん、賛成」と2人が言うから、俺も「賛成」と言ったが、ジト目で見られた。


何、言ちゃダメなの‥‥‥2人に連れられて言ってしまっただけなのに‥‥‥


なんだか、歯車が噛み合うことなくギルドのカウンターに出向く。


列を作って並んで、いよいよ順番がきた。


受付嬢「はい、次の方」


ミミが「この依頼を受けたいんですが」


「はい、依頼書を見せてください。どれどれ‥‥‥え〜とEランクの依頼ですね、では、ギルドカードを提出してください」


「あっ、はい」と三人が差し出す。


「あの、もう1人の方は?」


「えっ、お、俺もですか?」


「はい、全員の提出が義務付けられています」と受付嬢


俺は、仕方なくギルドカードを差し出すが、隠蔽魔法で特SSSランクをCランクに変えた。


ギルドカードを受付嬢に渡すと「え〜と、Fランクの方が三人と、もう1人の方がCランクですね」というと三人の女の子は俺の方を振り向いた。


「おじさん、いや、クリスさんってCランクだったんですか?」


「うん、実は、そう」


「なぁんだ、てっきり、私たちと同じFランクだと思っていたのに」とメアリー


「私も〜」とメイジー


「実は、私も」とミシェル


「そんなに俺って弱そうに見える?」


「うん、見える」とメアリー


「うん、間違いなく、女性の尻に引かれていそう」


「うん、私も、思う」


「さぁさ、話は後にしてできましたよ」と受付嬢は、依頼書とカードを返してくれた。


それと受付嬢は「あのクリスさん、Cランクですよね」


「ええ、そうですが」


「でも機械に通すとランクが違うんですけど」


ドキッ 人の目を騙せても機械は騙すことができないか?


「う〜ん、機械の故障ですかね。クリスさんのカードだけなんですが、おかしいですね」とカードをまじまじと見ている。


「あれっ」


ドキッ


「クリス‥‥‥?」


カードと俺の顔を交互に見ている。


「クリスって、よくある名前でしょう?」


「まぁ、それは、そうですが‥‥‥でも、あなたのお顔、何処かで‥‥‥」


「嫌だな、気のせいですよ」


「まぁ、いいでしょう、機械は点検しておきますから、はい、カード」と俺にカードを渡そうして、俺が近づくと受付嬢は簡単には手を離さなかった。


「‥‥‥あの」


「あっ、はい、ごめんなさいね」と手を離してくれた。


「Fランクの方にCランクの男性が、メンバーにいるなんて、珍しいですからね」


「そ、そうですか?」


「でも、本当にCランクなのかしら?」


受付嬢は何か、気がついたように俺だけに言う。


三人は前を向いているから、俺の方を見ていない。


俺は後ろから口に指を立てて‥‥‥


「まぁ、何か、あるんでしょうね?、では、あとで本にサインをくださいよ」


「‥‥‥はい、了解」


サインと聞いて三人は、こちらを振り返る。


「サイン?」


「い、いや、こちらのことだよ、さぁ、行くよ」と俺が歩くだす。


「待ってよ」と三人が俺の後ろをついてくる。


ギルド支部の扉を出るときに、チラッと受付嬢を見ると手を振ってお辞儀をしていた。


俺だって、バレたみたいだ。


でも、うまく誤魔化してくれた‥‥‥


ギルド支部を出て「それで、どこに向かうの?」と聞いてみたら全員から「知らなかったの?」と突っ込まれた。


「あのね、クリスさん、ここから歩いて3時間くらいのところの村に行くんだよ」とメアリー


「あっ、そうなんだ、じゃ、行こうか? どっち?」


「もう、こっちだよ」とメアリーが先頭で歩き出す。


「なんだか変な人が仲間になっちゃったね」とメイジー


「うん、ほうとうに、でもCランクっていうことは、かなり強いね」


「でも、見た目見ても20歳くらいのおじさんだよ」


「そうだね、冒険者になるのは15歳からだから、たった5年でFランクからCランクって、すごいよね」


「ねぇ、クリスさん、クリスさんって何歳?」とメアリー


「えっ、俺、もうすぐ20歳‥‥‥」


「ほら、たった5年くらいで、もうCランクだよ」


なんだか話しながら歩くから遅い、こんなんで3時間で着くんだろうか?


歩くのが遅いから、俺の方が先を歩くことになっている。


「ほらほら、急いで、こんなんじゃ、3時間で村まで到着しないぞ。野宿になってしまうよ」


「えっ、それは大変、みんな、急ぐよ」


「でも、装備が重たいよ」


「うん、水も食料もあるから、これ以上、早く歩けない‥‥‥」


「もう、しょうがないな、まぁ、私も重い装備を背負っているから、そんなに早く歩けないね」


「ほら、メアリーも、そうじゃない」


「ヘヘッ」とメアリー


本当に、これじゃ1日で終わらない。


「あれっ、クリスさん、装備は?」


やばいところに気がつかれてしまった。


「もしかして、何も、持っていない、よ、ね」とメアリー


「うん、そうだね、ローブを着ているから、わかりにくいけど、剣も持っていない‥‥‥」メイジー


「クリスさん、本当に冒険者?」とミシェル


「大丈夫だよ」


「おじさん、もしかして魔法使い?」


「あっ、その可能性もあるけど、杖も、持っていないよ」


う〜ん、どうしたものか?


「あっ、じゃ、筋骨隆々でパワー系?」


「でも、そうも見えない‥‥‥」


「じゃ、クリスさんってなんなのよ」とメアリー


「俺は‥‥‥」


「俺は?」メアリー


「‥‥‥」


「そんなことより急ごうよ」



「あっ、そうだった。でも装備重たいよ」


「俺が持ってやるから」とつい言ってしまった。


「えっ、ほんとう?」


「わ〜い、やった」


「ほんとうにいいの?」と言いながら装備を俺の足元に置く。


俺も今日中に戻らなければいけないので、しょうがない。


三人分の装備を背負ったり、手で持ったりして、俺たちは村に急ぐ。


途中から持つのが重たくなり、俺は異空間に入れた。


だって重たい剣まで俺に持たせるから‥‥‥


普通、剣は自分で持つよね、でも、三人とも長剣を持っているということは剣士なのか、他には魔法も使えそうもないけど。


あまり前衛とか、後衛とか関係ないのかな?


「ふんふん〜ふん」鼻歌まで出てきた。


なんだか従者になった気分だけど‥‥‥


主人と召使?


それも三人もいる主人


装備は俺が持つというよりも、異空間に入れてあるので、休みなく歩いて、村に3時間ちょっとかかって到着した。


「あ〜、やっと村についたか?」とメアリー


「あっ、じゃ、クリスさん、装備を‥‥‥?」メイジー


「あれっ、持ってない」とミシェル


しまった、村の近くになったら出しておくんだった。


「クリスさん、重たいからと言って、どこかに置いてくるなんて!」


「ほんとう、ひどい」


「いや、捨てないよ」


「えっ、持ってないじゃない」


「そうそう、嘘はだめ」


「めっ」


俺はローブの内側に空間の出口を作り預かった装備を全て出す。


「ほら、ここに」


「あっ、本当だ、私のだ」


「あっ、私の剣」


「私の全財産」と言って荷物の元へ急ぐ三人


「あれっ、でも、どこに入れていたの?」


「もしかしてふところで温めていた?」


「いや、そんなことしないし、剣を温める趣味はないよ」


「でも、心なしか、暖かいような」


「いや、さっき、預かったままだよ」


「えっ、さっき、預かったまま?」


「あ〜、もう、しょうがないな、俺は異空間収納が使えるから、その中に入れておいたんだよ」


「‥‥‥‥え〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」と3人が同じ大声を発する。


「い、異空間収納なんて、大魔法使いの勇者のクリス様みたいじゃない」


「えっ、俺だって、使えるよ」


「でも、名前が同じ‥‥‥」


「いや、それは、その、なんていうか?」とそこに助け舟が来た。


村の塀のところから人が歩いてきて「君たち、もしかして冒険者?」

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