第307話 神獣と勇者2

俺はウルフと初めて、正面に対峙することになったけど、対峙する前の恐怖や震えは感じなかった。


ただ、緊張感で俺の胸はドキドキして、自分でも心臓の音が耳に届いている。


でも、本当に恐怖はない。


体の震えもない。


心臓が張り裂けそうだけど、頑張らなければ、アリシアが、見ているかもわからない。


好きな彼女の前だけは威勢がいい状態を見せたいけど、なんとなくアリシアの好みにあっていないような。


おうおうおう、ウルフの旦那、とか言いそうだ。


実際に言ってないよ‥‥‥ほんとだよ


ウルフと対峙する時に、ここでは、まずい


人も多いし、奴がここで、屋敷以外の人を殺すことも考えられるので、俺は、ある案を思いついた。


そのためにはウルフの気を逸らす必要がある、確実性を上げるために。


「おい、ウルフ」


「なんだ」 大声で言わなくたっていいじゃないか


と言って、奴の戦闘体制を緩めて、俺は、手振りもなく、今までで、一番、早く空間魔法を使って、奴を閉じ込めた。


屋敷の上には、奴の気配がない、


自分で作った空間に奴の気配がある、よし、成功したみたい。


そこに屋敷の窓から、アリシアとソフィアとイザベラとコリンとシャーロットとセラフィーナ、そしてエイミーとアイリスが見ていた。


あれ、アデルが、またいない??


奴がおばれ回っているのを感じるけど、破られることはない。


俺は全員に手を振って瞬間転移した。




アリシア視点


屋敷で食事していたら、突然、屋敷の外で、すごい音がした。


ほんとうにびっくりするくらいの雷が落ちた音だった。


天気はいいから雷が落ちることはないと思うんだけど、慌てて、窓から外を見たら、30代くらいの男が宙に浮かんでいる。


そのさらに上に、遠くて見えにくいけどクリスみたいに思える。


あれがクリスたちが追っているウルフ??


普通の人みたいに見えるけど、エイミーとアイリスが緊張しているのが見える。


エイミーの顔には汗が浮かんでいる。


何かを話しているような感じだけど、ほんとうは何も話していないのかも。


しばらく二人は、距離を保ったまま、動かない。


そうしたら、二人が動かないのに、男だけが消えた。


本当に一瞬の出来こと。


「えっ、どこに行ったの?」つい部屋を見渡してみた。


でも、部屋の中に現れる形跡はない。


もう一度、外を見るとクリスが近寄ってきて、手を振ってくれる。


手を数回、振ったとクリスも突然、消えた。


なんだか、わからないけど、エイミーとアイリスが説明してくれる。


エイミー「ご主人さまが、ウルフと戦うために、どこにしようかと思っていたみたいですが、ウルフがご主人さまに気づいて、ここを襲ってきたみたいです。」


アイリス「それをご主人さまが追いかけて、ウルフを見つけて、火の魔法で 邸を燃やそうとしたみたいですけど、ご主人様が、どうやったのか分かりませんが瞬間的に消したみたいです」


エイミー「 ご主人様は勇者のスキルを十分に使いこなしていて、すごいことになっていますけど、そのスキルを使って炎を消したと思います」


エイミー「 ご主人様の事は私が話したい」

アイリス「 私もご主人様のことを話したいの」


と言い合いが始まってしまった。


じゃあ、かわりばんこ話してくれるとソフィアがいうと、 2人は顔を見合わせてじゃぁ交代ねと言った。


エイミー「 勇者のスキルを消して炎を消したんですけどウルフのやつがずる賢くてご主人様のほう向いているのに雷の魔法を使ったみたいです」


アイリス「 その雷の魔法が先ほどの大きな音です」


「 クリスが言っていたように、やっぱりここを狙ってきたんだね」アリシア


「うん、怖いね」イザベラ


「本当ね、すごい音だっから」コリン


エイミー「 ご主人様が、ここで暴れないように、空間にウルフを入れたみたいです」


「へー空間にそんな使い方、あったんだ」イザベラ


アリシア「そうだね、使えね〜ってクリス入っていたからね」


セラフィーナ「あっ、でも私の国から兵士を運んだ時も、すごかったですよ、3000人以上を1回目は入れていたんですから、私もその中に入っている一人でしたけど」


アリシア「へー3000人?」


セラフィーナ「はい、でも3000人を入れても、数分の時間だけですよ、入り口が空いた時には、もう王城ですから」


アリシア「 用意周到と言おうか、用意万端って言う感じだね」


セラフィーナ「はい、クリス様は、考えていないようで、しっかり考えておいでです」


アリシア「でも、エイミーとアイリスが、ここにいてくれるから、安心だけど、私たちだけじゃ、あの音で外に出ていたかもね」


セラフィーナ「はい、そう思います」


コリン「今ごろ、泣き叫んでいるかも」


「でも、本当に雷の音が凄すぎて、街、全体に音が届いたんじゃないかな?」


「はい、たぶん‥‥‥」


「そんな奴とクリスは、勇者として戦っているんだね」


「‥‥‥」


アリシア「勇者って言っても、私には、今までのクリスと同じだよ

一人で戦う寂しさはクリスが、一番、よく知っている‥

でも、クリスが勇者になったから、一人で戦うんだよね」


「アリシア」とソフィアが近寄ってきた。


「クリスは勇者になりたくて、修行したんじゃないよ‥‥」


「私たちを守るため、だよ‥‥‥」


「私たちが不甲斐ないから」


「アリシア‥‥‥」と言って座っているアリシアの頭を抱き寄せた。


「勇者クリスとして、彼は、立派です」ソフィア


「クリスは勇者だから孤独なんですよ」


「今でも、クリスは、アリシアを守るために、戦っていますよ」


「あなたが、そんなメソメソしていたら、クリスに合わせる顔がありますか?」


「アリシア、頑張りなさい」


「私たちを巻き込まないため、彼が選んだ方法です」


「私たちも、それに甘んじてばかりじゃいられないでしょ」


「うん、そうだね、クリスみたいに頑張らねければ」


「うん、そうですよ」


「私たちが初めて彼にあったことは話したでしょ」


「うん」


「彼はFランクの冒険者でした、でも初心者のFランクのくせに、一番、強いんですよ」


「彼が後方から魔法を放てば、魔物はいなくなりました


しかもウィンドカッターを曲げて打つんですよ


信じられませんでした。


風の魔法を曲げるなんて‥‥‥」


アリシア「あはは、クリスならと思うね」


「そうです、アリシア、彼ならです


勇者である彼なら、やれると信じています」


「クリスは本当に勇者になっても、変わらないね」


「そうですね、彼は、彼ですよ」


「うん、ありがとう、ソフィア、みんなも」


「一番、つらいのは、クリスだもんね」


「勇者クリスかぁ、私が好きになったのは‥‥‥」


そこでアリシアは、また、涙が出てきた。


「いつまでも田舎の村で、二人で暮らしたかったな」


「こんな心配しなくて、済むのに」


「それは、みんな同じ気持ちだよ」イザベラ


「私だって、クリスのこと好きなんだから」


イザベラが少し顔を赤らめる。


「あっそれなら、私も」とコリン


「私もですからね」とソフィア


「それなら私も」とセラフィーナ


「あっ、遅れましたが、私もですからね」


「あはは、みんな、クリスのことが好きなんだ」


「でも、クリスが一番、好きなのは、わかっているでしょ、アリシア」


下を向いたアリシアが「うん」


ソフィア「私たちが勇者を支えなくて、どうするんですか」


ソフィア「たとえ、戦えなくても、傷ついてボロボロになった勇者を癒してあげるのが、私たちですよ」


ソフィアがガッツポーズで燃え上がっている。


それを見ながら、全員で笑った。


「あははは‥‥‥」


クリス、待っているから‥‥‥と窓から外を見ながら言えた

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