第57話 如月の回想 52話相井先輩の続き
安田先輩は相井先輩が持っているメモを強奪して、
「これ、3-1の鈴木一真ってこと?どうかしたの?」
そう疑問を投げかけた。
「安田先輩、お知り合いでしたか?」
同学年とはいえ、学年7クラス。280人ほど生徒がいれば顔と名前が一致しないなんて事はままあるものだ。だが、名前のメモを見ただけでクラスが分かるという事は安田先輩が多少なりとも彼を知っているという事だ。
「2年の時同じクラスだったわ。可哀想な奴よ。飲んでないのにその場にいただけで飲酒したって停学になってさ。それまでは陽キャだったのにそれ以来陰キャになっちゃうし、多賀先生の授業の時は反抗的で、今年は1組にして多賀先生の授業当たらないようにしたとかさー」
ペラペラと話しだす安田先輩を見て相井先輩は目を見開いて凝視して固まっている。うっかり安田先輩に話を振ってしまった事に後悔した。これはまた、話がズレていきそして長くなってしまう。内心慌てた。すると戸村先輩が意を決したように立ち上がり
「安田ちゃん、バス停まで一緒に行こうか。塾とか忙しいんだろ?今日は悪かったな。付き合わせちゃって。メイド似合ってたよ。」
唐突の追い出しに入った。この手に安田先輩が乗るわけが
「はい!校内デート!行きます!」
乗るのか。相井先輩に何やら合図をすると戸村先輩は安田先輩をエスコートして数学班を後にした。
そして気を取り直したように相井先輩は話し始めた。
「ほぼほぼさっきの女子が言った通りなんだ。昨年の文化祭の後、鈴木は仲間内10人ほどで近くの公園で打ち上げと称して花火をしたらしい。騒がしいのと公園での花火は禁止事項であるから通報され逃げ遅れた数人が補導された。そのうち2人からアルコールが検出されたとか。」
ほんのり覚えている。文化祭の打ち上げで飲酒騒ぎがあって停学処分が出たから気をつけるように的な指導があった。
「鈴木は飲んでなかったんだが、酔って歩けなくなった友人を見捨てられなくて逃げそびれて補導されたんだ。けど、生徒指導の多賀先生は逃げた奴までは調べなかった。逃げられたならむしろ飲酒してなかったのだろうって。警察の呼気検査とは関係なしに補導された奴は全員飲酒で停学にしたんだ。飲酒を止めなかったしむしろ首謀者とか教唆扱いで」
「鈴木一真先輩は抗議をしたんですか?飲酒してないのは有名みたいですよね。」
相井先輩は頷きながら
「昨年、硬式テニス部は総体で成績が良かったんだ。鈴木もペアで勝ち進んでいたんだ。強い良いペアでね。けど、停学を食らって試合に出れなくなったんだ。停学の基準が飲酒ならば、飲んでいないのだからせめて試合にだけは出させてくれって彼は一生懸命だった。俺も一緒に多賀先生に頭下げたんだが、ダメだった。」
「多賀、馬鹿。駄目。」
亀と鹿の間で黙って話を聞いていた幸太朗が呟いた。多賀先生によく捕まる幸太朗には思うところがあるのであろう。
「結局、出れなくて、テニス部自体もそっからはあまり勝てなくて、鈴木は皆に泣きながら頭下げていたよ。それからなんだ。あいつの鍵アカのSNSの発言がなんとなく物騒になったのは。俺はハラハラしながら見守ってたんだ。大体は多賀へ対する恨みつらみなんだけど、今回は文化祭へ対してみたいだから何かやらかしたんじゃないかって。何も発表はされてないみたいだけど、日が経ては経つほど心配になって戸村に相談したら、一緒に来てくれたんだ。何か科学部で分かっているのか?」
大体の事件のあらましを説明すると相井先輩は、
「大事には至ってなくて良かった。」
とほっと息をついたようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます