第55話:不意討ち

 参った、本当に参ってしまった。

 まさかマリアお嬢様が、祖霊にまであのような誓いをするとは思わなかった。

 俺を慕ってくださっているのは知っていたが、一途過ぎる。

 あのような場で、あんな誓いをされてしまったら、罠を張る者の好餌になってしまうではないか。


 些細な事を理由に、祖霊や俺に対する誓いを破ったと言い立てる事ができる。

 俺ならば、どのような手段を使ってでもマリアお嬢様に男を近づける。

 自分の侍女や戦闘侍女に中に男を紛れさせて、マリアお嬢様に近づける。

 まずは男性刺客を放って殺そうとしたうえで、失敗するような事があっても、何としても室内に入らせさえすれば、男を引き込んだと言い立てる事ができる。


 これでは、やりたくないのに、マリアお嬢様を隔離しなければいけなくなる。

 まるで独占欲の塊のように、誰も近づけない厳重な護りの中に、マリアお嬢様を囲い込まなければ、御守りできなくなってしまう。

 そんな事くらい。ソフィアなら分かっているだろうに、なぜもっとお嬢様に注意しておかなかったのだ。

 いや、ソフィアに責任を押し付けるのは卑怯だ。

 俺がもっとマリアお嬢様に諫言しておくべきだった。


「マッティーア、国外に送った偵察要員をどれくらい戻せる」


「確認させていただきます、エドアルド公王陛下。

 マリア王太女殿下の害になりそうなご側室の方々を見張り、必要であれば排除すると言う事でよろしいでしょうか」


「その通りだが、その基準はかなり厳しくする。

 疑わしきは罰すると言う心算で、厳しく調べてもらう事になる」


「女性偵察要員を戻す御心算のようですが、その必要はございません。

 例え選りすぐりの女性偵察員を戻したとしても、直ぐに側室の方々のお側近くに就かせる事は不可能でございます。

 それよりは、今以上に予算を増やして、側室の方々の側近を裏切らせる方が確実だと思われます。

 国外に出ている偵察要員を戻すよりも、暗殺要員を増強すべきかと思われます。

 この程度の事は、エドアルド公王陛下の事ですから、分かって上で申されておられるのでしょうが、一応言葉にさせていただきました」


「今までのような卑劣なやり方は、マリアお嬢様の配偶者として許されるだろうか。

 俺自身がどれほどの悪名を受けようと構わないのだが、俺の行いの所為でマリアお嬢様の評判が落ちる事が心配なのだ。

 率直な意見を聞かせてくれ、マッティーア」


「率直に申し上げさせて頂きます。

 側室の方々の罪を捏造して処罰する事は、マリア王太女殿下の名声に傷をつけると思われますので、お止めになられた方がいいと思われます。

 ただ、些細な事であろうと、実際に罪があるのなら、即刻母国に送り帰されて構わないと思われます」


「分かった、徹底的に追放できる理由を探ってくれ」

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