第50話:公太女の決意・マリア視点

「ソフィア、わたくし、前線に出たいのですけれど、手配してくださる」


「それは危険過ぎます、お止めください、マリア公太女殿下」


「危険な事は重々承知しています。

 ですが、お義兄様の足手纏いにならないようにするには、護られているだけではいけないのではありませんか」


「しかしながら、エドアルド公子殿下からは、必ずマリア公太女殿下を御守りするように命じられております」


「それは、わたくしの命令よりも、お義兄様の命令を優先しろと言われているのですか、ソフィア」


「いえ、決してそのような事はございません。

 エドアルド公子殿下がマリア公太女殿下を蔑ろにするような事はありません。

 ただ、マリア公太女殿下の御命に係わるような事だけは、不敬になろうとも断じて行うように言われているだけでございます。

 全てはマリア公太女殿下の安全を思われての事でございます」


「では、わたくしが前線に出る事は、ソフィアや護衛の者達の力をもってしても、護り切れないような危険があると言うのですね。

 皆の力をもってしても、不可能だと言う事なのですね」


「……いえ、そのような事はございません。

 護衛の者達が普通に警護をすれば、何の問題もなく御守りできます」


「では何故危険過ぎると言って止めるのですか」


「わたくしの想像も及ばない、エドアルド公子殿下が事前に想定されておられる危険以外の突発的な出来事で、準備している戦力や作戦で対処できない場合を恐れての事でございます」


「ソフィア、貴女はともかく、お義兄様が想定されていないような危険が、本当に起こると本気で考えているのですか」


「……いえ、ありえない事だと思っております」


「でしたら、ソフィアが最善だと思う、お義兄様が想定されている作戦で、わたくしが前線に立てるように準備してください。

 ローマ帝国の愚か者も、謀叛を企んだ忠誠心の欠片もない恩知らずも、塔に幽閉するか地下牢に閉じ込めてあります。

 あの者達の見張りは、公王陛下や公妃殿下が近衛を率いてやってくださいます。

 ですが、国土を侵そうとする侵略者共を迎え討つ公王家の者がおりません。

 お義兄様が他国の侵略者共を叩きのめすために外征されているなら、義妹の私が前線に向かわなければ、家臣国民の忠誠心を得る事ができません。

 お義兄様は、わたくしを傀儡ではない真の女王にしたいのではありませんか。

 だったら、お義兄様の考えを達成するためにも、わたくしが前線に出るべきなのではありませんか」


「マリア公太女殿下のお考えと決意はよく理解できました。

 何があろうとお守りできる体制を築いてみせますので、しばしの御猶予をお願い致します」


「期待していますよ、ソフィア」

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