第24話:舞踏会3

「エドアルド殿下、私と一曲踊っていただけませんか」


 北方にある小国の王女が声をかけてきた。

 俺のきいている範囲では、ローマ帝国やフランク王国の有力貴族よりも、軍事力も経済力も劣る国だ。

 それでも、形だけの王女でも公王家の公子よりは身分が高いので、爵位が下の者から爵位の上の者に声をかけてはいけないという、マナー違反しているわけではない。

 

 女性からダンスを誘うのが、はしたないと言われているのを無視すればだが。

 だが、彼女の気持ちも分からない訳ではない。

 目を見れば分かるが、悲壮な覚悟でダンスを誘っている。

 最初から俺を婿に迎えられるとは思ってはいないのだ。

 例え一夜の関係であっても、俺との繋がりを持ちたいのだ。


「喜んで踊らせいただきます」


 国のために自分を犠牲のしようとする、勇気ある王女殿下を無碍にはできない。

 例え俺との一夜の関係を噂に流そうとしていると分かっていてもだ。

 俺が義理堅い人間だと言う事は、今までの言動で大陸中に広まっている。

 一夜の関係とは言え、愛した女性を見捨てるような事はないと思われている。

 それが例え真偽不明の噂であっても、俺との関係は国も護りになる。

 ましてそれが真実なら、絶大な護りの力になる。

 恐らくだが、周辺国に圧迫されているか、国内貴族に謀叛されそうなのだろう。


「ありがとうございます、助かります」


 この王女はかなり賢いようだ。

 俺が全てを知った上でダンスの誘いに応じた事を理解している。

 こういう賢い王女を育てられるのなら、小国とはいえ侮れない。

 だが、多少の知恵やカリスマではどうにもならない事もあるのが現実の世界だ。

 圧倒的な戦力を持つ周辺国や、忠誠心の欠片もない有力家臣に狙われたら、多少の才能や善良さでは家も国も守り切れない。


 だが、忠誠心を持った一騎当千の家臣が一人現れるだけで、状況は一変する。

 俺が小国に婿入りすれば、一気に軍事大国経済大国になるだろう。

 思い上がっているわけではなく、冷静に計算してそうなる。

 だが、能力さえあれば俺でなくてもいいのだ。

 それに、戦闘と政治と経済を一人の人間がやる必要もない。

 それぞれの分野を数人数十人で受け持っても国を守る事ができる。


「いえ、大したことではありません。

 母国のために奮闘されている女性の手助けをするのが騎士の役目です。

 いかがでしょう、貴国と公国で軍事経済同盟を結びませんか。

 もし貴国が望まれるのでしたら、軍事と経済の顧問団を派遣しますよ」


「ほんとうですか、本当に我が国を支援していただけるのですか」


「ええ、かなり遠く離れていますので、直接援軍を送る事も交易をおこなう事も難しいですが、我が国の優秀な騎士と経済官僚を送らせていただければ、貴国の軍事力と経済力は飛躍的に高まる事でしょう。

 そうなれば、我が国を狙おうとする者は、貴国からの攻撃を警戒しなければいけなくなりますから、我が国にも十分利があります。

 ダンスが終わったら、側近と話し合ってください」


 公国から遠く離れた遠方の小国ではあるが、機動力のある騎馬軍団がいれば、主力軍が公国の攻め込んでいる間に、敵国の首都を奇襲する事は可能だ。

 敵国にまともな司令官がいれば、騎馬軍団に備える兵力を残さなければいけなくなり、公国への侵攻をためらう。

 まともな司令官がいない国なら、何カ国攻め込んできても簡単に撃退できる。


「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」

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