第4話:離反

 糞王太子が何を叫ぼうと、騎士や兵士はまったく動かない。

 愚かで実戦の事など全く分かっていない貴族だけが、欲に眼が眩んで剣に手をかけているが、俺に斬りかかる勇気などまったくない。

 愚か者では最初に俺に斬りかかった者が、最初に死ぬ事くらいは分かるようだ。

 そんな埒もない事を考えていないと、何時糞王太子の両手両足を斬り飛ばしてしまうか分からないほど、俺の心は怒りのあまり荒れ狂っている。


「エドアルド殿、この国を出られるという事ですが、どの国に行くのか決めておられるのですか」


 カルロの母親、ウァレリウス・ウディネ伯爵家のソニア夫人が話しかけてきた。

 心を傷つけられたマリアお嬢様の事が一番気になるが、幼い頃から仕えている侍女がお嬢様を慰めているから大丈夫だ。

 無骨な俺が慣れない慰めの言葉を並べるよりは、侍女に任せる方がいい。

 それよりは、父子揃って筋肉バカのウディネ伯爵家を陰から支える、権謀術数に優れたソニア夫人の話に乗った方がいい。

 ソニア夫人と話している間は糞王太子を殺したい激情が紛れる。


「いえ、まだどこに行くのかは決めていません。

 どこに行くかによって、この国の滅ぶ時期が決まりますから、マリアお嬢様とアウレリウス・ジェノバ公爵家に利のある国を選ぶつもりです」


「あら、そのお話を聞いていると、まるでマリア嬢がアウレリウス・ジェノバ公爵家を継ぐように聞こえますわよ」


「その通りでございます、ソニア夫人。

 マリアお嬢様が王家に嫁がないと決まった以上、養嗣子である私が由緒あるアウレリウス・ジェノバ公爵家を継ぐことなどありえません。

 相応しい婿をお迎えして、マリアお嬢様に公爵家を継いでいただきます」


「あら、それでしたら、エドアルド殿がマリア嬢を連れて国を出る必要などないのではありませんか」


「残念ではございますが、王家が国外追放を命じた以上、形だけは国を出なければ、叛乱を企てるような不忠者という評判が立ってしまいます。

 王家と戦うにしても、こちらから戦いを仕掛けるのではなく、王家から攻め込んでもらう必要があるのです。

 王家や王家に命じられた貴族が公爵家に攻め込んできてくれれば、堂々と皆殺しにする事ができますから。

 それに、この国にはろくな男がいません。

 マリアお嬢様に相応しい婿を探すためには、国を出る必要があります」


「まあ、そこまで考えていらしたのね、余計な事を申しました。

 でも、その言葉は、我が家のカルロはマリア嬢の婿に相応しくないという事だから、少々哀しいわね」


「ソニア夫人には申し訳ない事ですが、カルロには知恵がありません。

 カルロの武芸を生かすには、グレタ嬢と結婚するのが一番です。

 だからこそソニア夫人はグレタ嬢を養女に迎えて教育されたのでしょう」


「国外の敵だけでなく、国内の事までよく調べておられる事。

 本当にエドアルド殿は油断のならない方ね。

 だからこそ願いするわ、我が家と同盟してくださらない。

 ウァレリウス・ウディネ伯爵家は王家の愚行に巻き込まれて滅ぶ気はないの。

 エドアルド殿と同盟していれば、近隣諸国はもちろん、この騒動を利用して傭兵団を派遣するであろう帝国からも護られるでしょう」

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