第2話:宣戦布告
「宗教裁判なら喜んで受けさせていただきます。
私にはやましいところなど何一つございません」
マリアがそう答えたとたん、糞王太子とエセ神官と雌豚が、とても嫌らしい笑みを浮かべやがった。
何か卑劣な罠を仕掛けている事が一発で分かる表情だ。
マリアならどのような罠が仕掛けられていようと、神の御加護があると分かってはいるが、義兄としては僅かな危険も見過ごせない。
「待ってください、マリアお嬢様。
王太子殿下と一緒になって、悪質な薬物を使って令嬢や貴婦人の貞操を踏みにじっている、堕落した神官の宗教裁判など受けさせられません。
王太子殿下が婚約を破棄して追放するというのなら、お受けいたしましょう。
それが忠誠を尽くしてきたアウレリウス・ジェノバ公爵家への、王家の評価だとするのでしたら、それに相応しい対応をさせていただくだけでございます」
俺がそう言い切ると、マリアが驚いた表情をした。
いや、マリアだけでなく、この場にいる全ての貴族が驚愕している。
一番驚愕しているのは糞王太子とエセ神官だ。
マリアが国外追放になったら、俺は王妃となったマリアに遠慮する事なく、アウレリウス・ジェノバ公爵家を意のままにする事ができる。
養嗣子としてアウレリウス・ジェノバ公爵家に迎えられた俺なら、当然糞王太子の味方になると思っていたのだろう。
「それは本気で言っているのか、エドアルド殿。
ロマリオ王国随一の知将にして勇将と言われるエドアルド殿が、この茶番を見過ごして、マリア嬢の婚約破棄と追放を認めるというのか」
俺の宣戦布告を、糞王太子に尻尾を振っていると勘違いした馬鹿がいる。
ロマリオ王国随一の剛将と言われるカルロは、どんな敵であろうと金砕棒で打ち殺す豪勇無双の騎士だが、残念ながら頭の中まで筋肉でできている。
こいつとこの場で戦う気はないから、分かりやすく説明してやるしかない。
「よく聞け、カルロ、こんな卑怯で恥知らずな事を言いだす王太子と結婚しても、マリアお嬢様が不幸になるだけだ。
それに、貴族としても、忠節を尽くしたアウレリウス・ジェノバ公爵家にこのような仕打ちをする王家に仕えても、何時背後から襲われて滅ぼされるか分からない。
だからこんな国からはさっさと出て行って、マリアお嬢様の魅力が分かる英邁な男性を探していただくのだ」
「それは分かるが、女性をただ独り国外に放り出すなど、エドアルド殿とは思えぬ非情な行いではないか」
ここまで言ってもまだ誤解するのか、この筋肉バカは。
「誰がマリアお嬢様をお一人で国外に放り出すと言った。
義兄として一緒にこの国を出て行くのは当たり前の事ではないか。
いい加減に俺の忠告を守れ、この筋肉バカが。
何か言う前、何かする前には、必ずソニア夫人かグレタ嬢に聞いてからにしろと言聞かせただろう、愚か者が」
「おお、そうか、エドアルド殿がマリア嬢と一緒に行くのか。
だったら何の心配もいらないな。
エドアルド殿が自由騎士になったと知ったら、大陸中の国々が大将軍か筆頭騎士団長の座を空けて、三顧の礼で迎えるだろうからな」
やはりこいつは大バカだな、俺が受けた恩を忘れる事も、マリア嬢がかかされた恥を、いや、心の傷を忘れるはずがない事を分かっていない。
この場で糞王太子とエセ神官と雌豚をぶち殺す事など簡単な事だが、それだけではこの胸に渦巻く激情が収まらない。
この仕打ちを陰に隠れて見過ごしている王も王妃も王族も許さない。
見て見ぬ振りをしている卑怯な貴族連中も皆殺しにしてやる。
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