新婚旅行――4

 身構える俺に、玲那がニコッと笑いかけた。


「兄さん、しりとりをしましょう」

「思いのほかまともだった」

「なんの話ですか?」

「いや、なんでもない」


 思わず声に出てしまった。仕方ない。てっきり、ポッ○ーゲーム級の過激な遊びを提案されると思っていたのだから。


 ホッと胸を撫で下ろし、俺は答える。


「構わないけど、しりとりで三〇分も時間潰せるか?」

「まあまあ。やってみないとわからないじゃないですか」


 相変わらず玲那は和やかな顔をしていた。しりとりを盛り上げるアイデアでもあるのだろうか?


「そこまで言うならやってみるか」

「では、まずは兄さんからお願いします」

「じゃあ……りんご」

「豪華」

「カラス」

「好き」

「ぶっ!?」


 玲那の一言で俺は噴き出す。唐突に『好き』と言われたのだから無理もない。


「おおおお前、いきなりなに言って……!?」

「兄さんの答えが『カラス』だったので、『す』が頭につく単語を口にしただけですが?」


 玲那がクスリと笑みを漏らす。イタズラ小僧のような笑みだ。


 俺は悟る。


 しりとりにかこつけてイチャつくつもりか!


 先ほどの嫌な予感は当たっていたらしい。やはり玲那はグイグイ来るつもりだったのだ。


 狼狽うろたえる俺に手のひらを指しだし、玲那が催促さいそくする。


「さあ、兄さんの番ですよ?」

「ぐ……っ。き、機械」

「イチャイチャしたい」

「イサキ!」

「キスしたい」


 ぐあぁああああああっ!! むずむずする! お前、そんなにも恥ずかしい単語、よく連発できるな!


 おそらく、玲那の口にしている答えは『願望』でもある。『好き』も『イチャイチャしたい』も『キスしたい』も、玲那の本音なのだ。


 これはただのしりとりじゃない。しりとりの形式をとった愛情表現だ。


 だからこそなお照れるんだよ! お前、俺のこと好きすぎるだろ! 嬉しいけどさ! 幸せすぎてクラクラするけどさ!


 動揺する俺を玲那がニマニマしながら眺めている。アプローチできるうえに、慌てる俺の姿が見られて楽しいのだろう。


 だから俺は決めた。


 そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ!


「……愛おしい」

「ふぇ?」

「しりとりの答えだ。『キスしたい』の最後は『い』だろ?」


 玲那のポカンとした顔を目にして、俺はしてやったりと口端を上げた。


 頬を赤らめる玲那に、先ほどの意趣返いしゅがえしとして俺は催促さいそくする。


「さあ、玲那の番だぞ?」

「うぅ~~……っ! い、いつまでも支えます!」

「うぐっ! す、好きすぎて玲那のこと以外考えられなそう!」

「はぅっ! う、う、嬉しいけど恥ずかしすぎます、兄さん! ……あ」

「『ん』がついたから玲那の負けだな」

「むぅ……や、やりますね、兄さん」


 ニヤリと笑う俺に、玲那が頬をむくれさせた。


 よし! 勝った! クッソ恥ずかしかったけど勝ったぞ!


 グッとガッツポーズをとると、玲那が不機嫌そうだった顔をほころばせた。


「けど、兄さんがそれだけわたしを想ってくれていると知れて、嬉しいです」


 花咲くような玲那の微笑みを目にして思う。


 あれ? 結局俺は、玲那を喜ばせただけなんじゃないか?


 冷静になったら羞恥心が襲いかかってきた。顔がカアッと火照ほてる。背筋がむずむずする。


「では、第二ラウンドに参りましょう!」

「……ギブで」


 これ以上は恥ずか死してしまう。


 赤くなっているだろう顔を覆って、俺は白旗しろはたげた。

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