休日はもちろんふたりで――1
俺と玲那の結婚を
そのため、相原家での家事は俺と玲那で行わなくてはならない。ふたり暮らしなのだから当然ではあるが。
休日の午前一〇時頃。俺はジャージに着替え、風呂掃除にいそしんでいた。
スポンジとスクラビン○バブルを相棒に、壁に付着した
浴室は湿気が高いため、油断していたらすぐにカビが繁殖してしまう。こまめな掃除が欠かせない。
バスタブをスポンジでゴシゴシこすり、ふぅ、と俺は額の汗を拭った。
「父さんと母さんには頭が下がる思いだなあ」
俺たちの両親の仕事は、父さんが会計士で母さんがライターだ。
平日は、自宅で仕事ができる母さんが、休日は父さんが中心となり、毎日の家事をこなしていた。
俺も手伝いこそしていたが、自分たちだけでやらねばならないようになってから、家事の大変さと両親のありがたみを痛感した。
家事は想像以上に重労働だ。学業をこなしながらなので余計に疲れる。
「まあ、俺よりも玲那のほうが頑張ってるんだけどな」
ふたり暮らしがはじまった日、家事分担を決める話し合いで、俺は掃除、それ以外は玲那が担当することになった。
玲那
「古風かと思いますが、全面的に夫を支える妻になりたいんです!」
とのことだ。
父さん・母さんと暮らしていた頃から、玲那は積極的に家事に
玲那は、俺のために家事をすることに生き
しかし、実際に家事をやってみて俺は思う。
「玲那の負担、大きすぎないか?」
掃除だけでこれだけ疲れるんだ。炊事・洗濯・買い出しまで行う玲那は、俺よりずっと大変だろう。
玲那は頻繁に甘えてくるし、『妹を甘やかすのはお兄ちゃんの義務』とも
けれど――
「甘やかされてるのは俺のほうだよなあ」
情けなくて
ひとつ
このままではいけない。玲那を支えられるようになると決めたんだから。頼れる夫になると誓ったんだから。
「家事分担について、もう一度話し合おう」
うんうんと
「とにかくいまは、自分のやるべきことをやるか」
俺は風呂掃除を再開した。
中華料理が俺の好みだからか、玲那はよく作ってくれる。
今日の昼食も中華だった。ダイニングテーブルには、大皿に盛られた
玲那が手ずから小皿に取り分けてくれた青椒肉絲を口に運ぶ。
ピーマンとタマネギがシャキシャキ、タケノコはコリコリと、
野菜の
相方は米以外に考えられない。ガツガツとご飯を頬張れば、口のなかで青椒肉絲とマリアージュ。まさに至福の味わいだ。
青椒肉絲 → ご飯 → 青椒肉絲 → ご飯とローテーションする俺を、隣に座る玲那が嬉しそうに眺めていた。
「夢中になってくれてますね。
「夢中にならざるを得ないだろ、こんなに美味いんだから。特に野菜の食感が堪らないな。家庭の料理とは思えないぞ」
「油通ししてますからね」
「油通しって、食材を油にくぐらせるアレか? 大変じゃないか? あれって揚げ物と同じくらい油を使うんだろ?」
「レンジを使えば簡単にできますよ? 使う油も少なくて済みますし」
「俺の妹の主婦力がスゴい……」
「主婦ですからね!」
「エッヘン!」と玲那が胸を張った。子どもっぽい
玲那と生産者の方々に感謝しながら、俺は玉子スープで箸休めする。
ホゥ、と一息ついて、風呂掃除しているときに考えていたことを切り出した。
「なあ、玲那? 家事分担について、もう一回話し合わないか?」
「どうしてですか?」
「俺の担当が掃除だけなのに対し、玲那はそれ以外全部だろ? 玲那の負担が大きすぎると思うんだ」
「そんなことないですよ? もともとは全部
ウーロン茶が注がれたグラスを両手で包み込むように持ちながら、玲那が
たしかに一回目の話し合いのとき、
「家事はわたしに任せてください!」
と鼻息荒く玲那は宣言していた。
「せめてひとつくらいさせてくれ」
と俺が言わなければ、玲那はすべての家事を担っていただろう。
「雨にも負けず風にも負けず、働く夫を
「宮沢賢治か! けど、それは俺がお前を
「それならわたしが働きます!」
「お前は俺をヒモにする気か! 妻に
「依存ですか……それも悪くないですね」
「
額を覆い、深々と溜息をつく。どうやら玲那は、俺をヒモにしようと真面目に検討しているらしい。
なんて恐ろしいことを考えるんだ。俺にも男の意地がある。仕事も家事も妻に丸投げするような真似は、死んでもしたくない。
……まあ、いまの俺もほとんどヒモなんだけどな。
生活費は父さんと母さんに頼り切り。おまけに学校にも通わせてもらっている。自分の稼ぎはなく、家事の大半を玲那に任せ、俺がやっているのは掃除くらいだ。
考えれば考えるほど自分が情けなくなってきて、俺はもう一度
「とてもじゃないけど、いまの俺を『頼りになる男』とは呼べない。経済力どころか生活力もないし、特別勉強ができるわけでもない」
普段は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。