即位
暗殺者も大変だったが、その後はもっと大変だった。
父上が亡くなったその日のうちに、ふたりの兄上までもが暗殺された。
残ったのは無能でポンコツな妾腹の第三王子といまだ幼い第四王女。
兄上たちの死は、対外的には流行り病により急死ということになった。まさか暗殺者にやられたと公表できるわけもない。
そうしたあれこれの対応で城内がゴタゴタしている間に夜が明け、日の出と共に王都に滞在中の上級貴族や大臣たちに召集がかけられた。謁見の間には昨夜の暗殺者襲撃の件もあって警備の騎士・兵士が普段より増員配置され、物々しい雰囲気だった。そして普段よりも騒々しい。
騒々しさの理由は勿論、僕だ。
堂々と――とはいかないまでも――玉座に座っている僕の姿を見て、誰もが小声で何か口にする。それがざわめきとなっているのだ。気持ちはわかる。わかるけど「相応しくない」とか聞こえる声で言うのはやめてほしい。僕だって人間なんですよ。心があるんです。僕も自分が王に相応しいとは思ってませんけど、聞こえるように言うのはやめてもらえませんか。傷ついている国王だっているんですよ!?
「へいかのごぜんでぶれいですよ! おしずかに!」
頼りない兄に代わって最愛の妹が玉座の隣でプリプリと叱責の声を上げる。
一瞬水を打ったような静寂があり、またもざわつく一同。今度は「シャルロット様、噛まずに言えてすごい」「今日も天使だ」「シャル様が女王でいいのでは」といったオッサンたちの賛辞だった。この国大丈夫か。でも最後の意見には同意する。
「アルベルト兄さ……じゃなかった、あたらしいこくおうさまからおことばがあります。一同、ひかえなさい」
シャルロットの言葉を受けて、謁見の間は水を打ったように静まり返った。
全員揃って作法通りの所作で臣下の礼を取る。
玉座からの景色。悦に浸っている暇はない。
この礼は俺に対してのものじゃあない。
俺の「立場」に対してのものなのだ。
「
実の所、たったそれだけ言うのも緊張した。
噛まずに言えたのは僥倖だった。
「皆承知の通り、昨日、先王である父は御隠れになり、後を追うように私の兄ふたりも急死した。したがって――」
宣言する。
「――第三王子である私が王位を継承する」
まばらな拍手。歓声などまったく起こらない。隣でシャルロットが頬を膨らませるのが分かる。ひとりでも味方がいるのは有難いな、と思った。
誰もいなくなった謁見の間で、僕は「ぷうっ」と息を吐いた。
どうにか舐められずに済んだだろうか。いや、舐められまくりかな。
「アル兄さま、おつかれさまでした」
「あ、うん。ありがとう。緊張したよ……。僕、変じゃなかったかな?」
「りりしくてとってもすてきでしたわ!」
我が最愛の妹は
「シャルロットがいてくれて心強かったよ。どうもありがとう」
「そんなふうにいっていただけるなんてこうえいですわ!」
「あはは」
髪をくしゃくしゃ撫でる。されるがままのシャルロットは僕を上目遣いに見ながら、可愛らしくも悪戯っぽく笑ってみせた。
「わたくしの言った通りでしたでしょう? アル兄さまがきっと王様になる、って」
シャルロットの無邪気な笑顔に底知れないものを感じずにはいられない。
ともあれ、第三王子の僕はこうして王になったのだった。
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