彼の部屋

彼は朝方まで一緒に寝てもいいと許可すると、ピノは嬉しそうにベッドに入ってきた。時計は夜中の1時だったので、彼は6時になったらピノを起こそうと思った。ピノはベッドに入るなり直ぐに眠った。彼は隣で寝顔を見ると少しあきれた顔で微笑んだ。


「――まったくこの子は本当に面白い子だな。無邪気で明るくて素直で可愛い。お前が来てからは、色々と沢山驚かされるよ。愛玩ドールか、お前は私の可愛い人形だ。おやすみピノ…――」


 頬っぺに優しくキスをするとピノを抱き寄せて深い眠りについた。そして、朝方になると彼は腕に違和感を感じてパッと目を覚ました。するとピノがローゼフの腕を眠りながらカジっていた。


「うわぁっ!!」


 その瞬間、ローゼフは驚いて飛び起きた。


「人の腕を噛みつくんじゃない!」


 ローゼフはピノに噛まれた腕をバッと払いのけた。


「う~ん、お肉……」


「ん?」


「お肉……お肉固い……」


 ピノのその言葉にローゼフは、そこでガックリと肩を落とした。


「ピノのヤツ…――!! 人の腕を肉料理だと思ってカジったな!? 今のは屈辱的だぞ! コラ、今すぐ起きなさい!」


 彼がそう言って声をかけると、部屋のドアが突如ノックされる音が聞こえた。


「ローゼフ様、もう朝でございます! 起床のお時間になりました! さあ、起きて下さい!」


 パーカスの呼び掛けにローゼフは顔が急に青ざめると時計をバッと見て確認した。



「しまった! この時計は確か10分遅れていたんだ! ピノ今すぐ起きろっ!!」


 慌てて顔をバシバシ叩くと、ピノは目を覚まして起きた。


「痛いよローゼフ、何するの!?」


「しっ、今すぐ黙れ! とにかくどこかに隠れろ!」


 慌てた様子で右手を引っ張ると、いきなり鞄の中にピノを押し込めようとした。


『さあ、ここに隠れるんだ!!』


「痛いよローゼフ! それに鞄の中狭い!」


「ええい、こんな時に駄々をこねるんじゃない! パーカスが部屋に入ってきたら一貫の終わりだ!」


 ローゼフはそう言い返すと、慌てた様子で鞄のフタを無理矢理閉めようとした。


「なぜ閉まらない……!? 初めの頃は閉まったはずなのにっ!?」


「いやぁああああああっ! 鞄の中狭いよーっ!!」


 ピノはそう言って中で騒ぎ始めた。


「黙れピノ! 静かにしてなさい! パーカスに気づかれるだろ!?」


 彼はピノの意思とは関係なく、鞄の中へと無理矢理入れようとした。部屋の中から騒がしい声が聞こえてくるとパーカスが再びドアをノックした。


「ローゼフ様、如何なされましたか?」


 執事がドア越しで彼に声をかけてくると、焦った顔をしながらフタを一生懸命閉めようとした。


「だめだ! くっ、こうなったら…――!」


 彼のその言葉にピノはとっさに感づいた。


「や、やめてよローゼフ……!」


 ピノは彼にやめてと懇願した。しかし、ローゼフは何かを悟りきった表情でピノの事を見つめた。


「すまんピノ。もうこうするしか方法はないんだ」


「やめてよローゼフ、それは嫌ぁっ!!」


 ピノがそこでぐずると、彼は優しく微笑んで一言謝った。


「許せ…――!」


 そう言った瞬間、彼はおもいっきり右足でフタを真上から踏んづけて閉めた。


「わぁーっ!!」


 中ではピノの悲鳴が聞こえた。鞄のフタを無理矢理閉めると、そのまま左側足で鞄を蹴っ飛ばしてベッドの下に慌てて隠した。


『このひとでなしぃ~っ!!』


 ピノは鞄の中から叫んだ。ローゼフは鞄を急いで隠すと急いでベッドの中に潜った。そして、そのまま何もなかったかのように寝たフリをした。

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