愛玩人形
――雨が降るその日、商人は屋敷に訪れた。彼は自分の部屋に閉じ籠って塞ぎ込んでいた。思い出すのは、両親との懐かしい記憶だった。彼はベッドの中で両親との思い出に浸った。
「父上母上。何故わたしを置いて、天国へと逝ったのですか…――」
彼はひっそりと悲しげに呟いた。執事のパーカスが部屋のドアの前で軽くノックすると商人が訪れてきたことを告げた。
「あの、ローゼフ様。商人がたった今、屋敷に訪れてきました。いかがなさいますか?」
執事の質問に彼は沈黙すると返事をした。
「今は気分が優れない、商人に帰れと伝えろ!」
「わかりました。では、商人にはそう伝えときます」
執事はドアの前で軽くお辞儀をすると、その場を離れた。
「待てパーカス、商人をここに連れて来い!」
彼が部屋の中から話しかけると執事はすぐに返事をした。
「わかりましたローゼフ様、では今から商人をここに連れて参ります」
執事は返事をすると直ぐに下の階に降りて行った。そして、下で待たせている商人に話かけると、青年の部屋へと案内した。商人は彼の部屋の中に招かれるとどこかいつもより落ち着かない様子だった。彼は近くの椅子に座ると気分が優れない様子で話かけた。
「今日は来ない約束のはずだぞ? 来るのは明後日の約束だ。それが守れないのであれば、もう来なくてもいい…――!」
彼はキツめの口調でそう伝えた。商人は雨に濡れたフロックコートを黙って脱ぐと、大きな鞄をテーブルの上に置いた。
「どうか怒る前にこれをご覧下さい……! きっと、貴方様も気に入るはずです…――!」
「フン、またおかしなまやし物か? この前お前から買った水晶は役に立たないガラクタだったぞ。次は、大丈夫なんだろうな……?」
彼は疑った顔でそう話すとベルベットブルーの青い鞄に手をかけて開けた。古い鞄を覗いて見ると大きなビスクドールが一体、中に入っていた。
「これはビスクドールか…――? 随分と大きな人形だな。この私にお人形遊びでもしろと言う気か?」
彼は途端に怒ると、鞄から出した人形をガシッと掴んで投げつけた。
「貴様、私の顔が女のようだからカラカっているつもりか!? だとしたら趣味が悪いジョークだ! 何が気に入るだ、ふざけるなペテン師め!!」
「まっ、待って下さいローゼフ伯爵! 私は貴方様をカラカっている訳ではありません……! どうか私の話を最後まで聞いて下さい! この人形はただの人形ではありません! 特別な人形なんです――!」
商人はそう言って言い返すと慌てた様子だった。
「何を戯けた事を!? もういい、お前はもう来なくてもいいぞ! さあ、今すぐこの部屋から出ていけ! そして、二度とこの屋敷に訪れるな!」
彼は商人の腕を掴むと無理やり部屋から追い出そうとした。
「待って下さい…! どうか私の話を最後まで聞いて下さい…――!」
商人が必死で部屋の外から話かけると彼は観念した顔で部屋のドアを開けた。
「……入れ! でも、許したわけではない。用が済んだら早く帰ることだ。この私の気がかわらないうちにな…――!」
「ローゼフ様ありがとうございます……!」
商人は彼の許可を得ると、嬉しそうに再び部屋の中に入った。
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