序章
それはある晴れた日だった。その日、街の中にある大きな教会の鐘が重く鳴り響いた。葬儀の参列者は皆、黒い衣服を身に纏い。手には赤い薔薇を一輪持っていた。そして、哀しみの表情を浮かべながら別れを凌ぐように死者に赤い薔薇をたむける。
そんな中、葬儀の参列者の間に小さな男の子が現れた。彼が現れた途端、周りはヒソヒソ話をした。彼は周りの雑音なんかお構い無しに、葬儀の参列に一緒に並んだ。そして、右手には赤い薔薇を持っていた。
付き人の男性に背中を押されると、少年は死者が眠る棺の前で足を止めた。祭壇には多くの薔薇がたむけられていた。彼は嘆くことも悲しむこともなく、ただジッと棺を眺めた。そして、彼は心の中で呟いた。
これは父と母ではないと――。
そう思った途端、祭壇の上に置かれていた赤い薔薇を全て蹴散らすと大きな声をあげて喚いた。
これは父と母ではない! これは嘘だ!
偽りなのだ! 父と母は死んでなんか……!
少年は悲しみに胸の奥をかき乱されると死者が眠る棺の前で泣き叫んで暴れた。暴れる少年を周りの大人達は止めに入ったが、彼の悲しみは予想以上に深かった。その日、慟哭に打ち拉がれた叫び声が教会に響き渡った。
――その日を境に、彼は完全に心を閉ざした。凍った少年の心はもう何も感じない。あの日、父と母と共に死んだ。そして、凍った彼の心をそのままに長い年月だけが無情にも流れていった。
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