[4章1話-2]:消えない心の三角関係




 やはり三人という微妙な人数構成で、お互いの思いが分かっているだけに、自分ひとりだけということも出来ないと思っていた。(もっとも、友人の上村うえむら菜都実なつみに言わせれば「そんなこと気を使いすぎ」と笑われてしまったけれど)


 そんな茜音は半日で終わる授業時間の後は、珠実園に顔を出すことも多い。そこにいる面々は二人の関係を分かっていてくれるので気を使ってはくれるけれど、仕事の手伝いに行っている以上、健の業務を中断させて話し込んだりということは出来ない。


 そのことをウィンディでの仕事中に何気なく言ったところ、


「またー。二人きりになりたいのなら、ちゃんと誘ってみたら? 健君だって茜音ラブなんだから断ることは無いんじゃん?」


「そうだと思うんだけどねぇ。やっぱタイミングが難しいんだよぉ」


「あんまり強引に出るのも変だけど、未来ちゃん的にも茜音が健君と付き合っていることは分かっているわけだし、いいんじゃないかな?」


 菜都実と近藤こんどう佳織かおりの答えをもらい、さてどのタイミングで言ったものかと悩んでいたときに、今回の茜音家の大掃除の話を聞いた健が自ら手伝いを申し出てくれた。


 その作業中から茜音は切り出すタイミングを見計らっていたのだが……。


「ねぇ、兄さん。今度の週末は私に付き合ってくれてもいいでしょ?」


 作業も終わり、紅茶をすすりながら未来は横に座っている健に話しかけた。


「うーん。今度の週末は茜音ちゃんと出かけることにしたんだけど」


「えー? 今日も茜音姉さんのところで、今度も?」


 明らかに拗ねているような声を出す。


「だって、未来は学年末近いと思って」


「だからって、兄さんだけデートに出かけるわけぇ? ずるいよぉ」


 未来の言うことも分からないでもない。それでも進学先を無事に決めたとは言っても、学年末試験を控えている彼女と出かけるわけにはいかない。


 それに、やはり二人の関係は今の彼女ではどうにもならないところまで進んでいるような気もする。


「もう、仕方ないなぁ」


 しばらくもめたが、結局その週末は予定通りに出かけることで決まった。



「あーあ……」


 珠実園への帰り道、車の中で未来がため息をつく。


「なにをそんなにしょげてるんだよ」


「だってぇ」


 気持ちは分からないでもないが、それにしても今日の彼女の様子には何か引っかかることがある。


「おまえ、まさか……」


「えっ? そんな事ないない」


 慌てたように否定するが、健は未来の気持ちをとうに察していた。


「まだ、自分の中で決着できてないんだろ?」


 黙り込んでしまった未来。


 昨年の夏までは未来が健を思う気持ちにライバルはいなかったため、彼女もあまり気持ちを表すことがなかった。


 茜音の登場により、未来の計画が狂うことが分かると、彼女は何とかして健をつなぎ止めようとしたが、それも彼自身から否定されてしまった。


 そんな状況の中、三者の間での事態は落ち着いたにみえたのだが、まだ未来は完全に納得はできていないように見えるときがあるのを健は知っている。


「あんまりさ、茜音ちゃんに迷惑かけるなよ? また前みたいなことになったら、いくら未来ちゃんでも……」


「う、うん……」


 以前の事件のことからも、直接・間接にかかわらず茜音に危害が及ぶことになれば、今度こそ健も黙ってはいないだろう。


 その二人の気持ちが分かっているにもかかわらず、健が自分の初恋相手ということもあり、なかなか自分の気持ちを整理しきれないでいるのも、ちょうど未来の年頃かもしれない。


 その一週間、未来がそのことで健に詰め寄ることはなかったが、何もないとは健も考えられず、何となくもやもやとしたものを抱えながらの週末を迎えることになった。

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