死神が私を呼んでいる②
愛優と貴成の馴れ初めは、三年前大学入学した時分に遡る。 きっかけは入学して三か月がたった初夏、風で飛ばされてしまったレポート用紙が学内の池の中央の浮島に見事着陸した時からだ。
初夏とはいえ、池の中に入っていくのは女子としてはないなと頭を抱えていた。 だからといってレポートを諦めることもできない。
風で飛ばされたのだから、また風で移動してくれるかもしれない、そう思い池のほとりで静かに待っていた。
―――え?
もう諦めようかと思っていたその時、貴成が後ろからずんずんと歩いて来て池の中へと入っていったのだ。 そしてレポートを拾い上げると子供のように笑っていた。
濡れていなかったぞ、なんて言いながら戻ってきて、その途中で足を滑らせて盛大に転んで、レポートはぐしゃぐしゃになってしまった。
やらかしたぁ、とか言いながらそれでもやはり子供のように笑っていて、何だかよく分からなくて愛優も同じように笑ってしまった。
結局レポートは廃棄行きになってしまったが、お礼ということでお茶をご馳走して、少しずつ距離が近付いていって付き合うようになった。
「そう言えば、私の友達が貴成くんのことを紹介してほしいって」
「俺は別に構わないけど」
「私が嫌なんだよなぁ。 貴成くんを周りに取られたくない」
「取られないって。 俺は愛優のものだし、愛優は俺のものなんだから」
二人は周りにも羨ましがられる程ラブラブで有名になった。 喧嘩はすることがあるものの、大きな諍いには進展しない。 そして二人がデートしている時のことだった。
「愛優、危ない!!」
「え?」
貴成が突然叫んだ。 咄嗟に貴成が見ている方向を見ると一台のバイクが猛スピードでこちらへ向かってきていたのだ。
―――・・・私、ここで死ぬの?
―――私は今こんなにも幸せなのに?
―――・・・死って、こんなにも突然に訪れるものなんだ。
確認した時には既にバイクとは距離が縮まっており、今更逃げようとしても遅いと思った。 それ以前に硬直して身体が動かなかった。
「愛優!!」
「・・・ッ!」
ぼんやりと立ち尽くしていると身体に衝撃が走った。 どうやら貴成に突き飛ばされたらしい。
「え・・・?」
自分とバイクが交差するはずの位置で貴成が手を広げていた。 本当に一瞬にも満たない時間だったはずなのに、確かにその光景が目に焼き付いている。
「貴成くんッ!!」
貴成は愛優を庇い自分が犠牲となって事故に遭ったのだ。
「貴成くん、貴成くん!! お願い、返事して!!」
バイクに撥ねられた貴成は後方にあった塀に頭をぶつけてしまったらしい。 頭からは大量の血が流れていて顔色が悪い。
急いでハンカチを取り出し傷口に当てるが、その程度では出血が止められない程酷い怪我を負っていた。
「そんな・・・ッ! 駄目!! 貴成くん!! 目を開けて!!」
願うようにしてハンカチを抑え続ける。 生温かい感触がハンカチ越しに伝わってきては身体が震える。
「今すぐに救急をお願いします」
一方バイクに乗っていた人は傍で警察と救急に連絡をしていた。 許せなかった。 だが、それ以上に不安が勝り愛優は貴成に声をかけ続けていた。
「嫌・・・。 嫌だよ・・・!」
「・・・」
「貴成くん、お願い・・・。 私を一人にしないで・・・ッ!」
「・・・」
声をかけ続けても反応が一切ない。 愛優の声が虚しく響くだけだった。
―――これは誰のせい?
―――私のせい?
―――元はと言えばよそ見をしていたバイクのせいなのかもしれない。
―――だけどもっと対処できたはず。
―――貴成くんが死ななくてもいい道があったはず。
―――貴成くんが庇いにくることを知っていて、私がそれを止めていれば・・・。
―――貴成くんは何も罪がないのに・・・ッ!
警察と救急車がこの後に来た。
「これからは私一人だけで生きていけっていうの?」
担架に乗せられる貴成を見て呟く。
「そんなの、無理だよ・・・」
貴成は緊急治療室に運ばれ最善を尽くされたが、結局快復することはなく亡くなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます