第八章 セビリア大学

 セビリア大学は、外観は白い石で出来た建物で、真正面に黒い大きな扉があり、主にセビリア大学は二階建ての造りになっている。二階全てに大きなガラス窓がついていて、どれも黒い色の縁取りがある。一階にはほとんどに黒い扉が付いている、その扉は頑丈な造りの扉である。このセビリア大学の屋根伝いには、神話に出て来る様な羽の生えた聖人を思わせる石像が、いくつか置かれている。真正面の二階には三つの旗が掲げてあり、左から緑色と白い色の旗、真ん中が黄色と赤色の旗、最後に濃い青色に黄色の星が描かれている旗が置いてある。そして、セビリア大学の歴史は、十八世紀にスペイン王室の建物として建設され、タバコの交易や事業が、スペイン王室に莫大な富をもたらした事から、中世時代のスペイン産業を象徴する建物で、生産現場というより、タバコ事業の運営本部のような役割を果たしていたと思われる。現在はセビリア大学として活用されており、またオペラ「カルメン」の舞台ともなった、カルメンが働いていたとされる旧王立タバコ工場であるのだ。そしてスペインの観光スポットでもある。ルイス警部とオルコット捜査官は、車から降りると、セビリア大学の学務へと急いで向かった。大学内へと入ると、外観と同じで骨格が白い石で出来ていて、階段の手すり部分が黒い金属物質で出来ていて、階段の段差の部分が茶色の石造りになっているのが眼に入って来る。通路の角ごとにはいくつもの白い石像が置いてある。暫く大学内を歩くと、『学務』という表札が見えて来た。ルイス警部は、大きな茶色のドアをノックしてからドアを開け、その後をオルコット捜査官が追って入った。学務内は、職員の方たちが忙しなく動いていて、色々な書類の作成を行っているのが良く分かった。学務の職員は、十人くらい居るのが見渡すと分かった。ルイス警部は、最初に目が合った職員に「実は僕たちは英国特別捜査機関の特別捜査官で、少しお話しを聴きたいと思って、ここへ来ました。ここの大学の学生の事を詳しく知っている方とお話ししたいのですが、誰かいますかな?」といった。話し掛けられた女性職員は、少し驚いた様子で、ルイス警部に「ええ、はい。暫くここでお待ち下さい、直ぐに誰かを呼んできます」といった。数分後、年配の男と共に先程の女性職員が戻って来た。年配の男は、少し息を切らしながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「私は学務長のヘルマンです、何かお話しがあると聞きました。私が答えられる事でありましたら、何でもお答えします」といって、つぶらな瞳をきらりと光らせた。ルイス警部は、真剣な顔になり、ヘルマンに「では初めにリカルド・デラという男はここの学生で間違いないですか?」といった。オルコット捜査官は、答えを促す様に、じっとヘルマンを見た。ヘルマンは、額に手を当てて思い出す仕草をしながら、ルイス警部に「少々お待ちくださいね、何せここの学生さんはとても多くて、私も全ての学生さんを把握している訳では無いんですよ」といって、自分の席に戻り、ファイルを確認し始めた。ちょいとしてから、ヘルマンは、何冊かファイルを持ちながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「ええ、ここの学生で間違いないですよ。彼が何かしたんでしょうか?」といって、つぶらな瞳を目一杯開いた。ルイス警部は、平静な感じで、ヘルマンに「建築技術に付いて、彼に教えて頂きたいと思いましてね。彼の身元を確かめたいと思ったんですよ」といった。ヘルマンは、ほっとした様子で、ルイス警部に「そうでしたか、ついでですが、デラさんは問題を起こしたりした事は無いみたいですね。至って真面目な学生さんですよ」といった。ルイス警部は、愛想良く、ヘルマンに「なるほど、それでは大学内を見て廻っても良いですかな?デラさんの居る環境というものを知っておきたいんです。」といった。ヘルマンは、嬉しそうに、ルイス警部とオルコット捜査官に「ええ。この大学の建物だけでも建築学の事に対してはとても勉強になると思いますよ。何かありましたら、私の所へ来て下さい。ああ、これをお持ち下さい、ここのパンフレットですよ」といった。ルイス警部は、パンフレットを手に取り、ヘルマンに「おお、素晴らしい、パンフレットですな。」といった。ヘルマンは、得意そうな顔をしながら、ルイス警部に「ええ、ここの大学はとても古くて歴史のある建物で出来ているんです。それで紹介する事がたくさんあって、この様な厚みのある芸術的な表紙の冊子になっているんですよ」といった。ルイス警部は、感心しながら、ヘルマンに「うむ、凄いですねこの大学は。それでは、このパンフレットを持って、学内を見て廻りますね。では」といって、オルコット捜査官と共に学務を後にした。

 ルイス警部とオルコット捜査官は、学内を歩き出した、少しして天井が空いている広場の様な所に出た。その広場には昔噴水として使っていた物であろう物体があり、良く太陽の陽が降り注いでいる。この広場と噴水は薄い茶色の石で出来ているのだ。その広場を抜けると、色々な木や草のある広く長い庭に出た。その庭には柑橘類などが栽培されているのか、自然に全て任せているのか、どちらか分からないが実がとても大きくなっているのがたくさん眼に入って来る。ルイス警部は、庭の柑橘類のさわやかな空気を吸い込みながら、オルコット捜査官に「ここはとてものどかで、とても威厳のある場所だね。とても勉強に熱心に打ち込めそうだね、講義と講義の間の少しの時間に、この大きな庭に出れば、憂鬱な気分も消えて、気分も晴れ晴れするだろうね。オルコットさん」といった。オルコット捜査官は、控えめな笑顔とゆっくりとした呼吸をしながら、ルイス警部に「そうですね、こんなに空気が澄み切っていて、時間がゆっくりとした場所はなかなか無いですね。大学ってもっと時間に追われているイメージがありますがね」といった。ルイス警部は、先程よりも速い口調で、オルコット捜査官に「では庭から出て、もう少し学内を散策しようじゃないか。オルコットさん、何か学内の掲示板か何かに今回の事件の糸口があるかも知れないからね。ではそこから学内に入ろう」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、庭の片隅にある扉から学内へと入った。二人は学内の角や人通りのある場所で掲示板を探し、また掲示板の内容をよく吟味して読んだ。オルコット捜査官は、何かを発見したらしく、驚いた様子で、ルイス警部に「この張り紙を見て下さい。わざわざフランスのパリ大学から教授が来て、講演をしているみたいですよ。これです、これ…」といった。ルイス警部は、注意深く眼を凝らすと、オルコット捜査官に「うむ、これの事だね。これは凄い、フランスからかぁ。へぇ、この教授はとても若いね、まだたったの二十二歳で教授をしているね。ええと名前はエミリアン・ビヤールというのか、このビヤール教授は合理主義哲学を専門にしているみたいだね。とても面白そうな講義だね」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、その掲示板を一通り読み終えると、再び学内を調べる事にした、すると五分から十分辺り学内を歩くと、学生たちが集まって空いている講義室で、討論をしているのが分かった。ルイス警部は、近づき、学生たちに「君たちはいつもここで、話し合いをしているのかね?」といって、自分の捜査機関の身分証明書を見せた。学生の一人が、快活な感じで、ルイス警部に「あなたは捜査官の方ですか、ええ、私たちは講義が終わると、その講義の事で良く話し合うんですよ」といった。ルイス警部は、優し気な口調だが畳み掛ける様に、学生の一人に「君たちの話している内容が少し聞こえて来たんだが、内容は建築学の事だったと思うんだが、当たっているかな?」といった。学生たちは、にこにこしながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「そうなんですよ、私たちはこの大学で建築学を学んでいるんですよ」といった。ルイス警部は、心の中の事を打ち明ける様に、学生たちに「君たちは建築学を学んでいるとなると、もしかしてリカルド・デラさんの事も知っているかな?教えてくれるかい?」といった。学生たちは、当惑顔で、騒めいた。その中の学生の一人が、眉を上げて、ルイス警部とオルコット捜査官に「ええ、なぜですか?いったいどういう訳でデラさんの事が知りたいんですか?」といった。オルコット捜査官は、なだめる様に進み出て、学生たちに「いやいや、デラさんがどういう事では無くて、こないだあったセビリア大聖堂の事件について、彼に建築学の知恵を貸してもらおうと思ってね。彼が普段いる所や関わっている人たちを知りたいと思ったのよ。そうすれば、彼にいつでも話しを聴いてもらえる事が出来ると思ってね」といった。学生たちは、オルコット捜査官の話しを聞いて、先程までの落ち着きを取り戻した様で、学生たちの中から一人の学生が、声を張り上げて、ルイス警部とオルコット捜査官に「なんだ、そんな事だったのか。彼はとても真面目で、講義後に出来る集団に交じって、意見を積極的に言う様なそんな青年ですよ。特にいや、絶対と言って良い程、化学と建築学に関する講義の後は議論を行う集団に交じっていますよ。それに彼も中々の化学と建築学に関する知識を持っているんですよ、だから彼が話す事にかなりの人たちが耳を傾けていますよ」といった。ルイス警部は、興味を示した様子で、学生たちに「そうですか、今頃何処に居るか分かりますか?」といった。学生たちの中の一人が、我先にと言う具合に、ルイス警部に「彼はですね、現代化学で使う講義室の傍の薬草園に居ると思いますよ」といった。ルイス警部は、さわやかな笑顔を見せて、学生たちに「貴重な事をどうもありがとうございました。それでは僕たちは失礼します」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、軽く会釈をして、その場から離れると、再び学務へと向かった。なぜなら、先程学生たちから聴いて来た現代化学で常に使われる講義室の事と薬草園の事を教えて貰う為だ。ルイス警部とオルコット捜査官は、学務室に入ると、ルイス警部が、手を上げながら、ヘルマンに「あのう、ここの大学の地図か何かありますか?現代化学で使われる講義室と薬草園のある場所を知りたいんですよ」といった。オルコット捜査官は、ルイス警部の直ぐ傍で腕を組んで立っている。ヘルマンは、まるまるとした体格を小刻みに動かしながら、急いで来て、ルイス警部とオルコット捜査官に「はいはい、この大学の見取り図ですね。そのパンフレットにも載っていると思いますが、これですよ。ここが私たちがいる学務室です、それからここが現代化学で使われる講義室です、そしてこっちが薬草園ですよ。現代化学の講義室に行けば直ぐに薬草園のある所が分かりますよ」といって、まん丸い顔の眼を細めて、笑った。ルイス警部は、入念に見取り図を見て、ヘルマンに「そうか、このパンフレットにも載っているのかぁ、このパンフレットの事を忘れていたな。うむ、そうですね、この見取り図を見ると、現代化学の講義室から出た直ぐの所に、薬草園がある事になっているね。分かりました、今日はどうもありがとうございました。今日の所はこれで失礼します、また聴きたい事がありましたら、連絡します」といった。ヘルマンは、嬉しそうに、二人を交互に見ながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「いえいえ、お力になれたでしょうか。私で宜しければ何でも言って下さい、ああ、はい。それではこれで失礼します」といった。そして数秒で、ルイス警部とオルコット捜査官は、学務を後にした。ルイス警部は、セビリア大学の廊下を歩きながら、オルコット捜査官に「うん、この大学の事を調べたが何も事件に関係する事は浮かび上がってこないなぁ。そうは思わないか?オルコットさん、それでは作戦本部に戻るとしよう。何か新しい事が発見されたかも知れないからね」といった。オルコット捜査官は、一、二分位少し考えてから、ルイス警部に「私はあの講義の後に集まる討論会の様な物が少し気になりました。中には悪い集団の様な物があるかも知れませんよ、ジョナサン警部」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、自分たちが停めた警察車両の中へと滑り込み、セビリア市内へと走り出した。

 暫く車を走らせていると、英国特別捜査機関の作戦本部が見えて来た。オルコット捜査官は、車のハンドルを巧みに操作しながら、速度を落とさずに、作戦本部の駐車場へと入って行った。二人はいつも通り車から降り立つと、エレベーターで作戦室のある階へと急いだ。ルイス警部とオルコット捜査官は、作戦室へと到着すると、今手にしている捜査情報の報告を聴く為に、情報分析官のエイミーの事を探した。作戦室は相変わらず、色々な捜査官の報告や情報から考えられる推測などの話し合いの声が色々な機械を通して聞こえて来るのだった。ルイス警部は、じっくりと辺りを見廻したが前回と同様にエイミーの姿は彼女の机には無かった。オルコット捜査官は、ルイス警部よりは落ち着いている様子で、しかも作戦室全体を見るのではなく、ある個所だけを素早く見て、微笑んだ。どうやらオルコット捜査官は、情報分析官エイミーの居場所に見当が付くみたいだった。オルコット捜査官は、向き直り、ルイス警部に「恐らくエイミーは今小腹が空いたので、おやつを買いに下の階へと行っていると思いますよ。お腹が空くと集中出来なくなるみたいで、時々おやつを買いに行くんですよ。ですから少し待っていましょう、ジョナサン警部」といった。ルイス警部は、納得した様子で、大きく二回頷いて、オルコット捜査官に「そういうことなのか、では僕たちもコーヒーくらいは持っておかないといけないなぁ、あそこにあるキッチンにある、電気ケトルにスイッチを入れようじゃないか」といって、大きな歩幅で歩き出した。オルコット捜査官は、唐突な事だったので、一歩遅れて彼のアイデアに賛成しながら、ルイス警部に「ああ、ええ。私たちも何か飲み物でも頂きましょうね」といって、彼の後を付いて行った。ルイス警部とオルコット捜査官の二人がコーヒーを入れてから十分が経ち、熱いコーヒーを少しずつ飲んでいると、情報分析官のエイミーが大きな袋にお菓子をたくさん入れて歩いているのが見えた。オルコット捜査官は、肩を数回叩きながら、ルイス警部に「エイミーですよ、ジョナサン警部。ほらあそこです、大量のおやつですよ」といった。ルイス警部は、一口コーヒーを飲むと、オルコット捜査官に「そうか、ありがとう。オルコットさん、では聴きに行こう」といって、コーヒーの入ったコップを持ちながら向かって行った。その後をオルコット捜査官もコーヒーの入っているコップを持ちながら付いて行った。ルイス警部は、少し大きな声で、エイミーに「やあ、エイミー。何か新しく分かった事とか無いかい?あったら教えてくれると嬉しいんだが」といった。エイミーは、何か思い当たる事があるらしく、反応良く、ルイス警部に「ありますよ、たしか分析化学で分かった事があったという報告があった筈ですよ」といった。ルイス警部は、明るい表情で、エイミーに「どうもありがとう、分析化学というと科学捜査班の報告かな?」といった。エイミーは、反応良く、早口で、ルイス警部に「そうですよ、科学捜査班の彼らの報告です」といった。ルイス警部は、オルコット捜査官に「では科学捜査班の方たちに聴きに行こう」といった。オルコット捜査官は、胸を張った様子で、ルイス警部に「じゃあ、アダムに聴きに行く事にしましょう」といった。ルイス警部とオルコット捜査官が、会話をしていると、軽やかな足取りで、見た事のある顔が現れた。そう彼はアダム・ヒューズだ。ルイス警部は、アダムを見ると、眼を見開きながら、オルコット捜査官に「あれは君が言っていたアダム・ヒューズじゃないかい。僕は間違いないと思うよ」といって、指差した。オルコット捜査官は、直ぐに振り返り、ルイス警部に「ええ、そうですね。凄く良いタイミングですね、では行きましょう」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、コーヒーを一気に飲み干すと、アダムに近寄って行った。アダムは、ルイス警部とオルコット捜査官に気が付くと、にこやかに笑いながら、小走りして近づいて来た。アダム・ヒューズは、心が弾んでいる様子で、ルイス警部とオルコット捜査官に「やあ、カーラとジョナサン警部。こっちの捜査で手掛かりがあったんですよ、その事でお知らせしたいと思って二人を探していた所だったんです」といった。ルイス警部は、アダム・ヒューズに「それで科学捜査での報告ってなんだい?その事で僕たちに話したい事があったんでしょう?」といった。アダム・ヒューズは、息を弾ませながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「はい、そうなんですよ。早速お話しします、それでは私たちの実験室に来て下さい。それでは私に付いて来て下さい」といった。ルイス警部とオルコット捜査官はアダム・ヒューズに連れられて、階下へと向かった。するとアダムの持っている科学捜査班の人たちが持っているカードキーで、大きな頑丈そうな扉を開けると、そこは科学捜査で使われる部屋が広がっていた。科学捜査班が使う部屋は、十数人の科学捜査官と、色々な機材や実験で使う道具がたくさん並べられていた。その実験機材や実験器具とは、質量分析計、色々な種類のピペット、色々な種類の試験管、フラスコなどの実験で使う色々な種類の瓶、色々な種類の試験管立て、色々な種類の加熱や冷却器具、エバポレーターの様な減圧や加圧機材、色々な種類の計測器具、色々な種類のクロマトグラフィー、色々な種類の光学機材、などの実験機材があるのだ。科学捜査官たちが使うこの実験室は、大きくて横に広がっているテーブルが五つあり、そこに密集して科学捜査官たちは実験している。十数人の科学捜査官は、目の前に置かれている機材を使って何かを調べているらしかった。ルイス警部が、辺りをぐるりと見回していると、オルコット捜査官が近寄って来て「アダムにしっかりと付いて行かないといけませんよ、ジョナサン警部。ほら急いで下さい」といった。するとアダムが、手招きしながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「こちらですよ、こっちです。さあこの部屋に入ってください」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、アダムが開いているドアの中へと、入って行った。その部屋はアダム・ヒューズの部屋で、机の上にはたくさんの本が無造作に置いてあり、棚には色々な大きさのファイルが置いてあった。アダムは、棚から一つのファイルを手に取ると、ルイス警部に「これですよ、これ。今回のセビリア大聖堂の事件の報告書です、どうぞご覧になってください」といって、ファイルを渡して来た。ルイス警部は、ファイルを受け取ると、アダムに「ありがとう、早速中を拝見しようじゃないか」といって、ファイルを開いた。オルコット捜査官は、ルイス警部の開いているファイルを横から覗いている。ルイス警部は、黙々と報告書を読んでいると、はっと顔を上げた。ルイス警部は、アダムに「この報告書を読むと、やはり円形に建物をくり抜くのは建築会社も十分可能なみたいだね、するとあの建築会社“再建”が事件に関係しているのは選択肢として捨てれない様だね。それにやはりあのワイヤーロープの留め金の英語のアルファベットが三文字と数字の四桁は製造番号でZTK三四零一であるという事だね。それと事件現場には土が所々に落ちてあったみたいだね。」といった。アダムは、眼を輝かせて、ルイス警部とオルコット捜査官に「そうなんです。その土の成分を調べた所によると、普通植物を育てるのに必要な成分というのがあるのですが、いわゆる三大要素の窒素、リン酸、カリウムがあります。次に中量要素という成分で、マグネシウム、カルシウム、硫黄があります。これら三つの内とても重要なのがマグネシウムとカルシウムです。マグネシウムは葉緑体が光合成するのに必要だからです。花を咲かせる作用を促すリン酸の吸収を行う事を促します。カルシウムは植物細胞を強化して、根の活性化に必要な成分なのです。次に微量要素と呼ばれるものがあります。この微量要素とは、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、モリブデン、銅、塩素の事をいいます。これらの比率が土によって異なります、つまりDNAの様に土を特定出来るのです。また今回の採取した土にはフミン酸が多く含まれていました。このフミン酸は植物が微生物で分解され生成される酸性の無定形高分子有機物なのです。このフミン酸がこの土に多く含まれているので、より土の特定が出来る様になっていました。それからですね、この土には少しながら花粉が混じっていました。この花粉の持ち主はブラック・キャットと呼ばれる花の花粉でした。このブラック・キャットは、原産国がインド北西部から東南アジアにかけて咲いている花なんです。この辺りじゃあ見かける様な花じゃないんです。それからまたセビリア大聖堂の天井がくり抜かれた場所で、衣服の切れ端が見つかりました。この衣服の切れ端から人の汗と微量な化学物質が見つかりました。人の汗の方は犯罪前科者リストと照らし合わせましたが、合致する人物はいませんでした。次に化学物質の方を調べた所、クロチアゼパムというベンゾジアゼピン作動性の薬である事が分かりました。クロチアゼパムは、不安やイライラ等の改善薬として働く薬なんです。不安やイライラは脳の過剰な活動が原因で起こりますので、その活動を抑える効果の薬がクロチアゼパムなのです。それと最後にセビリア大聖堂の周辺の監視カメラについてですが、スペイン警察から聴くと良いみたいですよ。私が監視カメラについて調べようとしたら、その様な返答でした」といった。ルイス警部は、少し興奮した様子で、アダムに「そうか、分かった。天井のくり抜く技術、ワイヤーロープの留め金の製造番号、土の成分、衣服からの人の汗、衣服からの化学物質のこれら五つの手掛かりがあるという事だね。とても助かるよ、ヒューズさん、報告ありがとう」といった。アダムは、愉快な笑顔を見せながら、ルイス警部に「いえいえ、お力に成れてとても嬉しいですよ。こんな事お安い御用ですよ、私は仕事が好きな物ですからね。なんてこと無いんです」といった。オルコット捜査官は、握手をしながら、アダムに「ありがとう、いつもありがとうね。いつも頼りにしているわ」といった。アダムは、砕けた様子で、オルコット捜査官に「良いんだよ、さっきジョナサン警部にも言った通りに、私は仕事が好きだからね」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、アダムの傍から離れて行くと、話し始めた。ルイス警部は、心臓が高鳴る気分で、オルコット捜査官に「色々な手掛かりを手に入れた訳だが、まずはブラック・キャットという花の花粉の事から調べる事にしよう。この国では通常は咲いていない花だからね、とても犯人の特定をするのに役立つ事だと思うんだ。そうは思わないかい?オルコットさん」といった。オルコット捜査官は、心が決まった様子で、ルイス警部に「ええ、そうですね。あっそれから一応スペイン警察が何か手掛かりを掴んでいるかも知れませんから、彼らスペイン警察に話しを聴いて見ましょう。その後で花の事を捜査しませんか?ジョナサン警部」といった。ルイス警部は、オルコット捜査官に「そうだね、オルコットさん。スペイン警察も良い手掛かりを発見しているかも知れないからね、それではスペイン警察に聴くとしよう」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は自分たちのデスクに戻り、スペイン警察と英国特別捜査機関の繋ぎ役のチャベスに連絡を取る事にした。ルイス警部は、自分のデスクで固定電話の受話器を左手で持ちながら、もう片方の手の右手でペンを持ち、目の前にメモ用紙を置いて、スペイン警察の人物が電話口に出て来るのを待っていた。固定電話がトゥル、トゥルルルルと鳴り出した。数秒が経ち、電話口に人の応答が確認できた。電話の相手は、雑音が聞こえて来るのに対して無関心な様子で、ルイス警部に「こちらスペイン警察のチャベスです。ご用件はなんですか?」と電話でいった。ルイス警部は、快活な声音で、チャベスに「こちらは英国特別捜査機関の特別捜査官のルイスだ、ルイス・ジョナサンだ。ジョナサン警部と呼んでくれ、そちらのスペイン警察のセビリア大聖堂での事件についての捜査報告を聴きたいと思って、電話したんだ。捜査報告を聴かせてくれるかい?チャベスさん」と電話でいった。チャベスは、良く通る声で、ルイス警部に「ええ、もちろんですよ。上司から英国特別捜査機関とNCAには協力を惜しまない様にと言われていますので、まったく問題ないです。それで何を知りたいんですか?それを教えて下されば直ぐにお教えできますよ」と電話でいった。ルイス警部は、落ち着き払った口調で、チャベスに「まずはスペイン警察での大雑把な捜査状況を聴かせて欲しい。それから詳しい事を僕が指摘する事について教えて欲しい良いかね?」と電話でいった。チャベスは、電話口で雑音を立てながら、ルイス警部に「分かりました。では捜査状況のお知らせをします。まず初めに私たちスペイン警察は事件現場であるセビリア大聖堂で事件時に不審な人物や不審な車を見かけなかったか、聴き込みをしました。すると、事件時の午後十時から午後十時十八分の間と、金の盗難で警備本部に連絡を入れた時の午後十時二十分で、セビリア大聖堂の屋根伝いに不審な人物を見なかったか聴いてみた所、残念ながら見た人は誰一人いませんでした。しかし、午後十時二十分から十分位経った後に、セビリア大聖堂から少し離れた曲がり角で、男が二人いて、金の受け渡しをしている所が、監視カメラに映っていました。どうやら彼ら二人の男は今回のセビリア大聖堂の事件の犯人たちと見て、間違い無いでしょう」と電話でいった。ルイス警部は、威厳のある口調で、チャベスに「その男が二人、監視カメラに映っている映像を、僕宛てに送ってくれないか?僕たちの捜査機関でその映像を詳しく調べたいんだ。お願い出来るかな」と電話でいった。チャベスは、慎重に答える様に、ルイス警部に「ああ、はい。分かりました、ジョナサン警部宛てにセビリア大聖堂の近くで撮影された監視カメラの映像を送れば良いんですね。直ぐに手配します」と電話でいった。ルイス警部は、優しい口調で応対しながら、チャベスに「そうだ、頼んだよ。出来るだけ早く監視カメラの映像を送ってくれると助かるよ」と電話でいった。チャベスは、ルイス警部に「了解です、直ぐに取り掛かります。ああ、それとこちらの聴き込みで分かった事があるんですよ。そちらの英国特別捜査機関で分かった“再建”という建築会社の特殊な建築技術を持っている五人の人たちのアリバイを調べた所、ドミンゴは、事件の犯行時間に建築会社“再建”で事務仕事をしていて、そして特殊技術を持っている五人の内の二人のバンデラとカルボと電話とメールで指示をしていました。次にバンデラとカルボは、急な建築の仕事が入って、犯行時刻に仕事をしていました。この二人は呼び出された仕事場に居る所を他の従業員が見ています。そしてセブロは、犯行時刻に酒を飲みにバルのスペイン語で“バッカス”という店に行っていたそうです。そのバルは、サッカーの観戦をテレビでしていて、その時に勝ったチームを応援していた人たちと負けたチームの応援をしていた人たちで小さないざこざがあって、乱闘騒ぎがあったらしいです。その時の事をセブロが話してくれましたが、セブロ自体を見たとか覚えているという人は一人も出て来ませんでした。次にフェルナンデスですが、犯行時刻には一人でワインを飲みながら読書をしていたという事でした。それを証明できる事や物や人はいませんでした。“再建”の特殊な建築技術を持っている五人のドミンゴ、バンデラ、カルボ、セブロ、フェルナンデスのアリバイについては以上です」と電話でいった。ルイス警部は、思い出した様に慌てた口調で、チャベスに「それとセビリア大聖堂の事件での調査で、ブラック・キャットという花の花粉が見つかったんだが、このブラック・キャットという花はインド北西部から東南アジアにかけて咲いている花なんだ。スペインでの密輸犯罪組織や麻薬関連の犯罪組織や密入国を行う犯罪組織などの犯罪を行う連中の事を教えてくれないか。今回のセビリア大聖堂の事件に大きく関わっている可能性があるんだ。宜しく頼むよ」と電話でいった。チャベスは、陽気な口調で、ルイス警部に「了解です、そちらの方も調べてみます。分かり次第連絡します」と電話でいった。

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