第28話 夏風邪

 風邪をひくと体は辛くなる。しかし、どこかテンションのおかしな感じになってしまう。

 そう、平常時よりもなんだか楽しくなってくる感じ。


 熱があるからだろうか?それとも思いがけない休みがいいのだろうか?

 まぁ、辛いは辛い。だけれども、どこか楽しんでいる自分がいるのだ。


 はい、ということで僕は風邪をひきました。海で遊んだ疲れが出たのだろうか?

 割と高熱を出し、自室のベットの上で寝ている状態だ。

 幸いにも夏休みなので学校はない。けれども、部活は休まざるを得なかった。


 部長さんと美琴さんに連絡をして、お休みをいただいた。


「・・・喉渇いた」


 僕は起き上がり、飲み物を取りに行く自室から出ていった。

 今日は親も夜まで帰ってこない。息子が熱を出していると言うのに薄情なものだ、とか思ってみるが、高校生にもなってそれはないだろう。

 てか、自分でなるとかすると言っている。


「寝よ」


 僕はペットボトルをいくつか持ち、自室に戻った。

 こんな時は寝るのが一番だ。特に頭も使いたくないし、勉強とかも今日ぐらいは許されるだろう。


 僕は再び眠りについた。



 ◆◇◆◇



 あれ、ここは?


 僕はじっと周りを見る。どこか見覚えのある光景。

 ずっと見てきた光景。木と汗の匂い、白い服、ぼんやりとしている。ああ、だけどひどく嫌な感じ。


 目の前には・・・・・父さんが居る。


 ああ、これは夢だ、夢とわかる。よく見る夢だ。

 僕の身体は動かせない。いつものことだ。


「○☆¥%○+<」


 父さんが何かを言っている。聞きたくない。


「%2:〆÷×1☆○2:〒〒|<>>」


 やめろよ!!


「☆☆$$¥€3+・」


 うるさい!!!


「→○♪2+=3<^々」

「→○♪2+=3<^々」

「→○♪2+=3<^々」


 ああ、もう嫌だ!!!!!



 ◇◆◇◆



「はっ!」


 僕は目を開け、ゆっくりと起き上がる。


「うわぁ」


 自分の体を確認すると、汗だくになっていた。

 熱がある時はよく汗が出る。だけど、それだけなのだろうか?

 なんか夢を見ていた気がする。よく見る夢を。しかし、内容は思い出せない。なんか、嫌な夢だった気がする。


 まぁ、夢なんてそんなものだろう。見たことは覚えていても、内容なんて曖昧だ。

 しかし、嫌な気分はなんか残る。モヤモヤとした感じとか、あー、嫌だなーっている微妙な感覚とか。


「まぁ、いいや」


 僕は起き上がり、風呂場に向かう。とりあえずこの汗を何とかしたい。

 お風呂は貯まってないし、今から貯めるのもと思います、シャワーで済ます。


 熱は少し下がっている。ちゃんと寝て、ちゃんと汗をかいたからだろう。

 体の怠さも治っている感じがする。まぁ、でも無理は禁物だから、安静にするんだけどね。

 本でも読もうと自室に戻ろうとすると、インターホンが鳴った。


「あー、誰だろう?」


 ゆっくりとインターホンの方へ向かい、画面に写った人を見る。


「・・・・・美琴さん?」


 そこには、僕のよく知る先輩の姿があった。

 何でここに美琴さんが?とか思いながらとりあえず出る事にする。


「あの、美琴さん、どうしてうちに?」

『やっほー!!空くん、お見舞いに来たよー!!』

「えっと、それは嬉しいのですが、うつる可能性もあるので控えた方がいいと思うのですが・・・・・」

『私は大丈夫!!風邪とかひかないから!!空くーん!暑いからとりあえず入れて欲しいなぁ!!』


 随分と図々しいお見舞いな気がする。あと、どんな理屈かは知らないが、まぁ美琴さんは風邪とかひかなそうなのは分かる気がする。

 それに、なんかここで帰しても悪い気がしてきた。

 僕は諦めて、玄関を開け中に招き入れた。


「やぁ!空くん!お見舞いに来たよ!!」


 すごいよ、この人は。お見舞いにこのテンションで来るんだから。


「どう?風邪辛い?」

「まぁ、今はだいぶ良くなってきましたね」

「そっか!ならよかった!!とりあえずねー色々買ってきたよ!」


 美琴さんは手に持っていたビニール袋を僕に差し出した。


「え、重っ!」


 受け取った瞬間、かなりの重さに驚き、中を見るとそこには、多くのものが入っていた。

 ゼリー、プリン、スポーツ飲料水、のど飴、アイス・・・・・てか、アイス溶けてない?あとは冷凍チャーハンが3袋!え、3袋入ってる?これだけ?


 僕はチャーハンを取り出しながら、美琴さんに見せる。


「あ、それね!美味しそうだったから買っておいたよ!!」


 グッと親指を立てる美琴さん。

 ああ、だめだこの人に意図なんて無いんだ。思いついたから入れた、ただそれだけなんだ。


「・・・・・えっと、ありがとうございます」

「ふふ!どういたしまして!!」


 なら僕も、深くは考えずに受け取るだけにしよう。

 ちゃんと食べ物だし、冷凍なら助かるので、意図とかセンスとかはどうあれ感謝をすべきなのだ。

 それに、他のものは今とても嬉しいものなのだ。


「ああ、そうだ美琴さん。部活休んでしまい、申し訳ありません」

「全然いいよ。でも、空くんがいなくて寂しいから、早く良くなったね!」

「はい。ところで僕の住所ってどうやって知ったんですか?」


 僕はここで気になっていたことを聞く。僕の家の住所は美琴さんには伝えていないし、部長さんにも言っていない。僕の知り合いで知っている人なんていないはずだ。


「ああ、それね!聞いて回った!!」

「え、聞いて回った?誰に?」

「ご近所さん!!」


 ドヤ顔で美琴さんはそう言った。

 行動力とコミュ力がある事は知っていた。しかし、そこまでやるとは知らなかった。


「・・・・・あの、普通に僕に聞いてくれたら良かったのでは無いでしょうか?」

「まぁねー!それも考えたんだけど、空くん教えてくれなさそうだったからさ!だから自分で調べた!!」


 調べたのかー、しかし、美琴さんのいうとおりである。

 僕なら何らかの理由をつけて教えていないだろう。この家が知られるのは少し嫌なのだから。

 だけど、聞いて回られるのと、教えるのではどちらが嫌かと言われれば、前者の方が嫌な気がする。

 なんかこう、恥ずかしさがある。

 結果、住所を知られてしまっているし、なんか美琴さんの凄さを思い知った気がする。


「・・・・・そうですか」

「うん!!」


 美琴さんはすごい笑顔だ。ほんと、この人は無敵だなーと思う。


「よし!お見舞いも渡せたし!私はもう帰るね!!」

「あ、はい。早いですね」

「まぁね!私がいても休めないだろうし!!お大事にしてね!!」


 いや、失礼なんだけどこの人が気を遣える事に僕は驚いている。

 まぁ、風邪をうつしても悪いし、早めに帰ってもらった方がこちらとしても助かる。


「じゃあ、また会おうね!空くん!!」

「はい、今日はありがとうございました」


 美琴さんはそのまま、手を振りながら去っていった。

 なんか嵐が来たみたいだった。唐突に来て、衝撃的な事を告げていって、ほんと自由な感じ。

 しかし、それこそが美琴さん!って感じがする。それに元気をもらえたりするのだ。


「・・・・・チャーハンでも食べるか」


 僕はチャーハンを食べて、今日はおとなしく寝た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る