02-013

 漏れ出した思考は言葉として吐き出され、否定した。これまでの腐りきっていた、引きこもりの自分が抜け出していくよう。心と言葉が離れていく様はどこか可笑しく、懐かしさを感じさせていた。


「安心しろ、俺が保証するよ」


「……なんで?」


 理由は簡単、と大翔は見透かしたような笑顔を明日香に向けながら、右の人差し指を立てて言った。


「俺と、同じ匂いがするからさ」


 そして、大翔の言葉に合点がいく。


 あのとき、列車で見つけた太陽の光。


 あれは、自分の中にあった光と同じ光を見たから。


 その光の正体は、年を重ねるごとに薄れていった子供の心であり、誰しもがその存在を願っていた正義の味方であり、誰しもがその存在になりたいと憧れていた救いのヒーローだ。悪を倒し、正義を貫く。そんな正しい光。


 そんな偶像の世界だけと思っていた光を、あの瞬間見つけてしまった。


 そんな光があることを知ってしまった。


 そしてあのとき、もう心の奥底では思い出していたんだ。


「ねえ……私、決めた」


 自分のやりたいことを。


「ん?」


 自分が、本当はなにになりたかったかを。


「私、ヒーローになる」


 大翔は「そうか」とだけ呟いて何も言わなかった。


 ただ、もし気を遣われて何かを言われても、今の自分の感情を表現しようがないから言葉につまっていただろう。そんなことを察してくれての言葉だったのかな、などと考えながら、明日香は空を見上げた。


 今はただ、宇宙のように真っ青なこの景色を覚えておくだけで充分。この空さえ、この色さえ覚えていれば、今の感情を思い出せるはず。


 そう自らに言い聞かせて、明日香はまぶたを閉じた。

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