第五話 は?3ヶ月も夫婦水入らずで旅行に行くって、マジっすか!?∑(゚Д゚)
大切な『女の子達』が泣いている。
なぜ泣く?なんで泣く?
二人が泣くと、『ボク』も悲しい。
泣かないで?って言うけど、『ボク』の声は届かなくて。
だから、声をがならせて叫ぶんだ。
『大丈夫だよっ!『ボク』はずっと二人といっしょにいるからっ!!』
いつもそこで目を覚ます。
なにがしらの夢を見ていた気がするんだけど、起きた時には覚えていない。
どうせ大したことのない夢だろう?と鼻で笑う自分に、必死で警鐘を鳴らす何かを感じる。
これが俺に何を意味させるのかは分からない。
分からないけど、、、あ、、目が覚める。
そんな確信を経て、今が夢だとはじめて認識する。
夢の中で見る夢は果たして夢と言えるのか?
またしてもそんなくだらない事を考えながら浮き上がる意識にそのまま流された。
「、、、、ぅ」
眩しい。
その眩しさが人工灯だと分かった。
「起きたかい、陽平」
「、、、父さん?」
目が覚めて飛び込んできたのは、見慣れた自室の天井。どうやら俺は自分のベッドで寝かせられていたらしい。聞こえた声の方に顔を向ければ、そこには椅子に座り読書を嗜んでいた父さんの姿があった。
何をしていても絵になるな、このイケメン父は。
「っと、確か、俺は、、、」
「はっはっはっ、普通はなかなかに体験できない体験ができたんじゃないか?良かったじゃないか」
「父さん、、、」
「はっはっはっ、半分は冗談だよ」
半分はかいっ!仮にも実の息子が、実の娘達と不本意ながらも淫猥な破廉恥行為をしていたのに、この余裕ある態度。全く、母さんも母さんだけど、父さんも父さんだ。
「姉ちゃんと柚子は?」
予想はついているけどあえて聞いてみた。
「下で花さんにたっぷりお叱りを受けてゲンナリしていると思うよ?改めて聞くまでもないだろうに」
「まあ、確かに予想通りだけどさ。父さんが楽しそうに語るネタでもなくない?」
気怠げに体を起こしながらも呆れた声色で問う俺に。
「はははっ。父さん的には、桃華も柚子も年頃の女の子らしくて微笑ましいと思っているんだよ」
「はぁっ!?いや、なにをどう間違えたら年頃の女の子らしいんだよ?」
普通、男兄弟がいる年頃の姉妹は、一緒に風呂に入るとかあり得ないと思うんだけどな。
「そうかい?母さん、、花さんは高校生まで家族一緒にお風呂入っていたはずだよ?」
「!?ハァ〜〜〜ッッッッッ!?」
ナンデスカ、ソレ?
人生16年目にしてはじめて知る衝撃的な新事実なんですが、、、。
「なんで、父さんがそんな衝撃的なネタ知ってるんだよ、、、」
「あー、お前たちに話したことなかったね、僕と花さんは所謂(いわゆる)幼馴染というやつなんだよ」
「マジ?」
「ああ、本当さ。僕と花さんは、昔、ご近所さんだったんだよ」
へぇ、、、。それが父さんと母さんの馴れ初めなのかな?
、、、ん?ちょっと待てよ?そういえば。
「父さん、ちょっと聞きたいんだけど、いい?」
「なんだい?」
「たしか、昔にも聞いて誤魔化された記憶あるけどさ」
「うん?」
「少なくとも、俺たち姉兄妹って、母方の実家行ったことないよね?」
父さんは、「ああ、、、」と納得したようにウンウン頷いている。
この事実を前に聞いたのは、まだ姉兄妹3人がまだ小学生の頃。
『ねえ、ねえ、お父さん、お母さん。なんでお母さんのおじいちゃんやおばあちゃんに会いに行かないの?』
そうなったのは、当たり前といえばいたって当たり前のことだ。
夏休み前にクラスのみんなが話している中、俺と柚子は母方の祖父母に会ったことがない。その事実に遅まきながらも、俺と柚子、姉ちゃんが気付いたからだ。
尤も、当時の父さんと母さんは誤魔化すかの様に笑うだけだったが。
「父さん、確か、朝方家に婿入りしたんだよね?」
「そうだよ。それが花さんと結婚できる唯一の条件だったからね」
結婚のための唯一の条件、、、か。なんでまた?と思わず考えてしまった。
「ある意味では単純明快な理由だよ。朝方家の苗字と血筋を世に遺して欲しい。というのが陽平達の祖父母からの願いだったからさ」
「願い、、、?」
「ああ、そうだ。朝方家はね、結構古い歴史のある家系なんだよ。しかも、本家、直系筋になる」
「本家って事はー?」
「当然、分家もかなり現存しているみたいだね。父さんは知らないが、花さんは把握しているだろう。ちなみに、最大の疑問符だろうけど、朝方家はね、旧家の一族なんだよ。由緒正しき旧華族、分かりやすく言えば元貴族だね」
元貴族とかマジか。売れっ子イケメン一級建築士である父さんのおかげで、都内在住のわりに相当裕福なウチだけど、そういう裏設定完備とかラブコメモノのラノベみたいだな。
「ふーん。でもさ、そういう家系なら普通は、御家柄とか?そういうのが優先されそうに思うけど?」
「それに関しては、父さんは詳しくないんだ。ちなみに当たり前だけど、花さんなら知ってるだろう。ただー、、、」
「?、、、ただ?」
「万が一質問でもしたら、、、」
思わず、ゴクリ、と、生唾を呑み込む。
「いま、下で死んだ魚の様な目をしているであろう、桃華や柚子と同じか、それ以上な目にあうんじゃないかな?」
、、、悲しいかな、脳裏に浮かんだのは、いつもの温和なおっとり子煩悩ママさん然とした母さん。そんな母さんが、両目のハイライトを無くした状態でとても柔か(にこやか)な笑顔を浮かべ、めっちゃ早口且つ流暢にお説教を語る姿だった。
「あー、、、うん。聞く気はおきないや」
「くっくっくっ。昔、陽平も何度かお世話になったんだから、その反応もある意味仕方ないね」
思い出し笑いをする父さんを半眼で睨みつつベッドから起き上がる。
「おや、もう助けに行くのかい?」
「、、、父さんのおかげで思い出したら、そりゃあ、姉ちゃん達が不憫に思えてくるだろ?」
三度揶揄ってくるいい歳したおっさんを背に、軽く手を振りながら自室を後にした。
それから割とすぐリビングに着いた。
「あら、陽平くん。もう平気?」
リビングにて絶賛説教中の母さん、絶賛説教をされる側の姉ちゃんと柚子。
「、、、、、、」
おーけー、オーケー、OK。
ちょいと落ち着こうか、俺。
軽く謎の深呼吸必須案件に遭遇した。
ただそれだけだ。
「すーはー、スーハー」
「どうして深呼吸なんてしているのかしら?」
人好きのいい、子煩悩ママさん顔で笑う母親に対して言う言葉ではない気もするが。
「なんで、バランスボールの上に正座させてんのっ!?しかも、四方に剣山置いてるとか、下手すると虐待案件だぞっ!?」
思わずツッコミを入れずにはいられなかったんだ。
いま、姉ちゃんと柚子は二人とも言葉通り正座中だ。
バランスボールの上にて。
めっちゃ、顔を青ざめさせつつ、ガクガク:(;゙゚'ω゚'):プルプルしていた。
姉ちゃんと柚子の正面、背面、左右、それぞれに花道で用いる針山、、剣山と呼ぶ物が鎮座してある。
転けたら洒落じゃ済まんぞ、母さん。
「ったく、いくらなんでも、流石に剣山まではやりすぎだよ、母さん」
言うが早いか、すぐ様姉妹の周りに置かれた物騒なブツを迅速に回収した。
「あらあら、陽平くんは相変わらず二人に甘すぎなのよ?」
「おイタが過ぎたのはわかるけど、物事には限度ってものがあんでしょ?母さんのは明らかにやりすぎ。せめて明日の朝までバランスボールの上で正座とかなら、ギリギリ有りくらい」
「「十分にそっちも鬼の所行だからっ!?」」
姉ちゃん達にツッコミを入れられてしまった。
「ふーん?俺はいいんだけど?また、コレ?元に戻しても、、、」
いまの俺はとても悪役そのままな悪どい顔をしていることだろう。
「お兄ちゃんの鬼ぃっ!」
「優しいようちゃんなら、そんなことしないってお姉ちゃん、信じているからっ!」
「あ!お姉ちゃん、ズルいっ!」
「ゆずちゃんは直情型すぎるのよ?こういうのは、相手を上手に手玉に取って、こちらの有利にコトを運ぶ、、、ぁ、、」
姉ちゃんは語るに落ちたというやつだろうか?
「あらあら、桃華は肝心なところでいつもドジねぇ?」
さっきまで説教モードだった母さんも、すっかり毒気が抜けたのか通常運転に戻ったみたいだ。
「はいはい、俺は二人が反省してくれているなら、別段怒っていない。だから、これはここでお終いな!」
両手で軽くパンパンと叩き合わせながら、母さんに終わりを宣告する。
「「た、たすかったぁ〜」」
直後にバランスボールから崩れ落ち、安堵に伏せる二人の姿はなかなかに可愛らしくも情けなかった。
「これに懲りたら、今回みたいなことは以後勘弁してくれな?」
「「、、、はぁ〜いぃ」」
二人が若干不満気なのは気になったが、今回の落とし所はこんなものだろう。
「じゃ、俺は疲れたし、もう寝るよ。母さん、姉ちゃん、柚子。おやすみ」
「お兄ちゃん、おやすみなさーい!」
「ようちゃん、おやすみ」
姉ちゃんと柚子の言葉を背に俺は自室に戻るべくリビングを後にした。
当たり前だけど、意識がはっきりした後だし、風呂での柚子と姉ちゃんとの破廉恥行為。それに伴う二人の豊満マシュマロの感触を思い出してしまい、かなり悶々とした夜を過ごしたのはお後がよろしくないオチだったと言っておこう。
◆
あくる朝は、流石に姉ちゃんも柚子も反省中なのか、かなり大人しかった。
昨日、あんな事があったのにも拘らず、倉橋優奈も不気味な程に通常運転だったのには、俺も柚子もかなり肩透かしを喰らった気分だったが多分こんなものなのだろう。
まあ、日常生活が平凡な平和とは良いものなので、変に蒸し返したりはしない。下手に藪をつついて、とんでもないモノが出てきても困るし、人生万事、塞翁が馬である。
平和が一番だ。
それが仮初のものだとしても、、、だ。
そして、確かに、人生、万事、塞翁が馬。
よく言ったものだ。
今週前半にそう思った俺自身に言いたいものだ。
今週末の俺が、悲しいほどにそれを実感したなど、誰が分かり、知るのであろう?
週末始めである金曜日の夕食時に母さんからの爆弾発言があった。
第五話
『は?3ヶ月も夫婦水入らずで旅行に行くって、マジっすか!?∑(゚Д゚)』
「そうなのよ〜っ、ほら、2年前に、お父さんとお母さん、結婚15周年だったでしょう?」
「あー、あの、姉ちゃんが高校受験の年なのに、何を考えているのか、夫婦で3ヶ月間、イギリスの超豪華客船で世界一周旅行とか戯言をほざいた、アレか、、」
「やぁーん、陽平くんったら、い、じ、わ、る、さ、んっ!」
母さん、もういい年なんだから、、、いや、、、まあ、、、見た目は、まだ二十代後半にしか見えない歩く実年齢詐称犯な我らが姉兄妹の母君は、可愛らしく宣うのだが、それが変に違和感がない。という事がすでに違和感でしかないが!
「花さん、アレのせいで、世界一周旅行が台無しになったのを今でもかなり根に持っていてね」
あー、確かに当時は、かなり母さんがお冠だったな。
「それでね?実は、まだ当時支払った代金が有効のままなんだけど、その期限が今月末までなんだよ」
「ちなみにキャンセルしたら?」
「残念な事に1000万円近くが全額キャンセル料として没収だね」
あらま、それは旅行に行った方が有用だろうなぁ。
「そういうことなら、お母さん達は旅行に行くべきだよっ!!」
俺の気持ちをまるで代弁するかのように柚子が発言していた。まあ、基本的に父さん達の夫婦水入らず(という名のイチャイチャ)旅行に同意だが、その3ヶ月間、俺たち姉兄妹だけになるのは、家の防犯上よろしくないのではないだろうか。
「そうね、家のことは私と柚子が居るし大丈夫だから、お母さんとお父さんは旅行を楽しんできてね!」
、、、家の防犯問題に悩んだ俺など置き去りにして盛り上がる家族一同。
まあ、、、いいか。父さんも母さんも存分に楽しんできたらいいか。いつも俺たち子供達のために頑張ってくれているんだろうから。
「俺らのことは気にせず楽しんでおいでよ。俺たちみんな高校生になったんだしさ。自分達の事くらいはなんとでもなるさ」
安易に吐いたこの言葉をやがて俺は後悔する。
無論、そんなことなど知る由のない能天気な俺は、食事当番などをどうするかだけを考えていたのは言うまでもない。
そして訪れた週末の終わりである日曜日、事前予告通りに、父さんと母さんは世界一周旅行に旅立ち、家には俺たち姉兄妹だけとなった。
両親が旅立った後、俺、姉ちゃん、柚子で家事当番のローテーションを決めた。
普通は、この手の兄弟間での日常生活の決め事はかなり揉めるらしいのだが、何故だか、柚子も姉ちゃんも凄まじい勢いでやる気を見せ、結果としては二人で週6日の家事を分担で担当する事に決まる。
俺だけ楽で申し訳ないから、せめてどちらかの当番を1日融通を聞くと言ったが、最後まで頑なに拒まれてしまった。
◆
夜が明ければ月曜日。
思い返せば、アレコレ有りもしたが、先日までは平和であった。
だが、俺は知らなかった。
俺の預かり知らないところで、動き出してしまった事態という歯車は止まることなく回り出したことを。
知らなかった、平凡で平和な1日の裏で始まった事実を。
知らなかった、この日の夜中に俺の部屋に来訪者が現れていたことを。
そう、始まっていたのだ。
こんなモブキャラなハズの俺をめぐる姉妹間(+○の)争いが開幕していた事実を。
知らなかったんだ。譲れない想いを胸に、乙女達の戦争が幕を開けたという事を。
next episode
それは、恋に染まった乙女の戦い
あとがき
お疲れ様でございます!
まず最初にとあるシリーズ続話をお待ちの皆様申し訳ない(つД`)
こっち、書いちゃった(´∀`*)
まあ、今回はいわゆるタイトル回収回となりました。
いよいよ、次話よりプロローグに戻り、本格的な取り合いがっ!?
今話のラストで夜這いに来たのは、だぁーれぇーだぁーっ!?
既に奪い合いは始まっているのだよ!?
ヒロイン達の明日はどっちかっ!
知らんがなƪ(˘⌣˘)ʃ
次話は、お姉ちゃん視点です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます