攻撃してこないから味方
けれど、そうやって二人で寄り添い合うように寝ていたら、
「てめーら! なにそんなトコで寝てんだ!! どけっ!!」
と怒鳴られて思い切り蹴られた。
「……っ!?」
というところで目が覚めた。思い切り体がビクッと竦んだのが自分でも分かった。
『夢……か……?』
そう。夢だった。
『またすぐあいつらが戻ってくるかもしれない』
そんな不安が夢という形で現れたのだろう。
体格はもうすでに父親よりも上だ。加えて父親は明らかに怠惰な生活で体がなまっていることが、風呂に入る時に視線を向けなくても見えてしまうだらしない体つきでだいたい察せられる。
けれども、力で反抗する気にはなれなかった。それを試してなおも敵わなかったらと思うと怖くてできなかったというのもあるし、逆に自分が父親を圧倒できてしまったりしたらそれこそもうタガが外れて殴り殺してしまうかもしれない。それが怖かった。そんなことになってしまったら、自分は別にいいとしても、琴美の人生まで滅茶苦茶にしてしまう。それが嫌だったのだ。
別に自分に優しくしてくれるわけでもない妹だが、けれど、両親のように攻撃はしてこない。自分を痛め付けようとはしてこない。それだけでも<味方>と言える存在だった。
『攻撃してこないから味方』
などと考えられてしまうほどの殺伐とした家庭だった。
「……」
『父親が帰ってきた』というのは事実ではなくただの夢だったことを実感できてホッとした一真だったが、いつそれが正夢になるかもしれないと考えると気が気じゃなかった。だからそれ以降は、ほとんど眠れなかった。
ただ、琴美が穏やかに眠れているのを見ると、それもまたホッとした。決して仲がいいとは言えないかもしれないにしても、自分にとっては唯一のまっとうな家族だったからだ。彼女がいるからまだ正気を保てているのだと感じる。
そうして、琴美の寝息をずっと聞きながら、半覚醒状態のままで一真は横になっていたのだった。
そして朝、ようやく寝付けたところでアラームに起こされ、
「……」
一真は重く感じられる体を起こした。気分は最悪と言ってよかったが、それでも両親がいないという事実には救われる思いだった。部屋を見回してもあの二人は本当にいないのだ。だから自然と顔はほころんでしまう。
そんな何とも言えない寝覚めの中でも、いつも通り朝の準備を始める。
すると気配を感じたらしい琴美も起きてきて、
「……」
黙ったままコンロが一口しかないミニキッチンに立って、ベーコンエッグを作り始める。
これまでならまだ両親は寝ている状態なので、起こさないように会話はしない習慣が身に沁みついているのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます