ハズレガチャの空きカプセル
京衛武百十
捨てられた兄妹
二人が暮らしているのは、家賃三万八千円、築四十年を超える、ユニットバスとミニキッチンのみの六畳一間の、本来は単身者向けの安アパートであった。
しかも以前はそこにさらに両親も含めた四人で住んでいたのである。
けれど両親は満足に仕事もせず、月の手取り十八万円の一真の収入のみを当てにして怠惰な生活をしているという、どうしようもない者達だった。
にも拘わらず、たまたま買った宝くじで一等の前賞一億五千万円が当たったとかで、
「お前らは勝手に生きろ。俺達はお前らの所為で台無しになった自分の人生をエンジョイするからよ」
とだけ吐き捨て、行先も告げずに行方をくらました。一真と琴美のために賞金を使いたくなかったからだ。
「……」
「……」
あまりのことに唖然とする一真と琴美だったが、二人は二人で、自分達の両親のことはずっと以前から心底見限っており、内心、
『ようやくいなくなってくれた……』
と思っていたのが本音だった。
「……メシにするか……?」
「うん……」
両親が出ていったのを見送って、しかし二人は共に冷めた表情でそうやり取りして、しかしいつもはレトルトで済ませるところを宅配ピザを注文し、ささやかに祝った。
『どうしようもなくロクデナシの両親がいなくなった』
ことを祝って。
そんな一真と琴美の間には、血縁関係はない。二人の両親は共に再婚であり、それぞれ連れ子として兄妹になったのだ。
当時、一真は十歳。琴乃は二歳で、一真の方がかろうじて記憶が残っているだけで、琴美の方はずっと実の兄妹だと思っていた。けれど中学に通っていたある時、戸籍の写しを見ることがあり、事実を知った。
が、
「ふ~ん……」
と思っただけだった。この頃にはもう、強い厭世観からひどく情動が抑制されていたのだ。これは一真も同様で、ロクに働きもせずに自分の収入を当てにしてパチンコなどに興じている両親との暮らしを続けるために感情を押し殺すことが骨の髄まで染みついていたのだろう。
血が繋がっていないとはいえ、まだ子供だった妹を両親の下に残して逃げ出すこともできず、一真は<稼ぎ頭>として家に残った。そして琴美は、小学生の頃から一真と一緒に家事を担当していた。
この頃は両親もまだ、共にアルバイトでささやかに稼いでもいたのだが、一真が零細企業とはいえ正社員として就職が決まると、それこそ一切、働かなくなったのだ。
これは、どうしようもないロクデナシの両親の下に生まれながらも、かろうじて支え合ってひっそりと生きていく、血の繋がらない兄妹の日常である。
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