第18話 地獄楽天
今日の集会は愛のことがあって少し遅刻してしまった。
ものの数秒遅れただけでどよめき立つあいつらは今日の10分遅れの俺に泣き縋りついて、いつも以上に俺の結晶や息吹き、言葉を欲しがって、集会に来ていた300人全員が落ち着くまで1時間近く収集がつかない状態だった。
本当だったら今から休憩時間になるけれど、あの1時間が俺の休憩時間なのであと2件はぶっ通しでやらないといけない。
「今日はパフォーマンスにしてはだいぶ遅かったな。」
と、俺を次の集会へと運ぶ父さんの
結心「…新しく入会するかもしれない奴と話してたから。」
凛「そう、なの…?」
ニーナは俺の夜の予定を朝聞いていたのでとても不思議そうに首を傾げる。
俺はそんなニーナにアイコンタクトで返事をすると、父さんはしっかり前を見ながら鼻で笑った。
陽旦「やっと“神様”らしくなったな。まあ、次の集会は俺の“家族”が“子ども”を連れて来てるからちゃんと縁組みしろよ。」
結心「分かってるよ。けど、これ以上手ェ広げたら場所がないだろ。」
陽旦「ああ、それなら大丈夫だ。」
と言って、父さんは手探りで自分のカバンから何かの資料を取り出し俺に渡した。
陽旦「ニーナがボン2人捕まえたから新しい会場2つ押さえてある。」
俺は父さんの弾む声を聞きながら資料を見てみるとそこにはいつもの集会場よりも10倍近くある会場で、収容人数が1000人と3000人と書いてあった。
結心「…1日でこんなに来るわけないじゃん。」
陽旦「会場には入れない負け組が俺に泣きついてくるのがだるいんだよ。1番でかいとこだったら3回分の集会を一度で終わらせられるから自由な時間増えるぞー。」
…そんなこと言って、また勢力拡大考えてんだろ。
そう言おうとしたけど、あと3分で着いてしまうことを教える通学路の標識が見えたので俺は言葉を飲み込む。
凛「58,320,000円。前回より23%増加です。」
陽旦「やっぱり、俺と御神体は比べもんにならねーな。」
そんな皮肉を1人で笑う父さんは集会場の前に車を止めて、いつも通りニーナに車の扉を開けさせた。
凛「お足元お気をつけください。ハーベン様。」
と、ニーナは作り笑顔をしながら俺の手を取り車から下ろした。
結心「11.729.4081.19。行って。」
凛「……はい。」
俺はニーナに愛のことをお願いして金神の父さんと毎日の集会周りをしていく。
陽旦「ニーナ、どこ行ったよ。」
欲望のはけ口だったニーナがいないことに今さら気づいた父さんは車を出しながら少し目尻を上げた。
結心「入会の心得を教えに行ってもらった。」
陽旦「…“帰宅”だろ?何度言ったら分かるんだ。」
と、父さんは不機嫌が底なしに溢れ出し、声が低くなる。
陽旦「しかも、ニーナは俺の物なのになんでお前が動かしてんだよ。」
これが俺の一部を作り出した人間とは思いたくないけれど、今の技術がしっかりこいつを俺の親と判定した。
それに虫酸が走るし、このまま首元に腕を回して絞め殺したい。
そしてこんなアホみたいに神を祀り上げている協会を終わらせてたい。
そうしたらきっと自殺者が続出するのは目に見えているけれど、他に縋り付かないと生きていけない者たちはもう一度、一から人生をやり直してもいいと思う。
だから…。
俺は少し腰を浮かし、父さんの首元に腕を伸ばそうとすると車が急に止まり運転席に軽く体当たりしてしまう。
陽旦「あ?何やってんだ、しっかりベルトしとけ。一応、この国で生きてくための義務は外にいる限り果たせ。」
…だったら今さっき稼いだ1億円近い金の納税はしっかり果たすんだろうな。
俺は時たま衝動的に動いてしまう体を今日もまたシートベルトで抑えて、1番嫌いな人間と重だるい空間を過ごす。
陽旦「それかずっと“ウチ”にいるか。それなら何してもバレないからな。」
そう言って鼻で機嫌よく笑う父さんは俺にいつもの部屋にニーナを連れてこいと言って、最後の会場へ俺を送り届けた。
この極楽地獄は次来る春先で50周年。
半世紀もこんなことをし続けても、他人が手を下してくれないのであれば俺が動くしかない。
俺は“神様”としてこの極楽地獄の終焉を迎えるため、また信者を増やしていった。
環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様
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