第16話 Out Time
夕焼けが初めて見る海と一緒に俺たちの目を刺してくる。
けれど、そんなこと気にせずに愛は拾った木の枝で俺や葉星の似顔絵を描き、久しぶりに自然な笑顔を見せてくれた。
結心「下手かよ。俺、こんなに太ってない。」
そう言って愛がせっかく描いてくれた似顔絵の顎を削り、シャープに描き足す葉星に愛はブーイングを送る。
愛「そこ、ほっぺじゃなくて結心さんの髪の毛です。」
結心「輪郭と髪が同化してたぞ。」
愛「えー?だってととくんはもみあげが顔まわりにあるからそういうものだと思ってました。」
結心「俺はないし、これはみもあげじゃない。」
と、葉星は自分のパーマボブを指でつまみ愛に軽く怒る。
それに変だと笑う愛は最近の悩みはすっかり忘れてるようで、今日が最後のデートにならずに済むかもしれない。
俺はそうなるように願いながら日がくれた海辺で砂も虫もゴミも気にせず寝転がる2人のそばに座ったまま、愛の様子を伺う。
愛「あー…!あれが大三角形?」
結心「そうそう。そこから、とん、とん、とんとととんで冬のダイヤモンド。」
愛「わぁ…。結心さんって物知りなんですね。」
結心「まあ、夜は暇だから星覚えた。」
そう言って愛に数時間星座を教えた葉星は起き上がり、少し歩いたとこにあるコンビニに用を足しに行ってくると言って愛から離れた。
愛「…おそと、寒いね。」
と、愛はさっきまでの楽しげな笑顔はどこかに捨ててしまい、最近よくする寂しげな表情をする。
とと「おうち帰ろう?おそとはまだいいよ。」
愛「ううん。もう十分。帰りたくないし、もうあそこは私の家じゃないよ。」
そう言って愛は起き上がると俺を抱き上げ、星も月も浮かばない真っ暗な海へ歩き出す。
とと「カイロ、保つかな。」
愛「もう関係ないよ。というよりもう切れてる。」
とと「…そっか。じゃあ葉星に買ってもらう?」
愛「ううん。必要ない。」
とと「…葉星は?心配するよ。」
愛「結心さんは私がいなかったら自分の家に帰るだけだよ。」
とと「突然いなくなったら帰れないよ。」
愛「けど、帰る場所は…っ、あるよ…。」
と、愛は寒さで喉を絞め海水に浸かった足元を見る。
愛「冷たくて痛いね…。向こうまで我慢できるかな…。」
とと「向こうに行っても何もないよ。」
愛「なくていいよ。ととくんがいればいい。」
そう言って愛は足をぎこちなく動かしながらどんどん真冬の海へ足を進める。
愛「…いたいっ。心臓がいたい…、息…うまく出来ない…。」
とと「愛、戻ろう?俺も初めて寒いの感じてる。」
俺は愛と体半分入ってしまった暗闇の寒さにないはずの肌に鳥肌が立ちそうになる。
愛「おじいちゃんもこんなに痛かったのかなぁ…。助けられなくてごめんね…。」
とと「いいよ。俺は気にしない。」
愛「私がちゃんと電話出来てたら助かってたのに。ずっと一緒にいたのは私だったのに、ごめんね。」
とと「助かってたら今すぐ愛を引き戻せたのに。ごめん…。」
愛「……ととくん、大好き。」
とと「俺も、愛が大好きだよ。」
俺の声が全く届かなくなった愛はどんどん波で体を濡らし、ぐらつかせる。
そのひと波ひと波が愛を凍てつく暗闇から1歩戻し、1歩引き寄せる。
それをどうしても止められない俺は愛と一緒に肩まで海に浸かったところで引き潮にさらわれるかのように後ろに引き戻された。
結心「何やってんだよ。」
半裸で濡れ髪の葉星が涙と鼻水で溺れている愛の腕を掴み、凍てつく暗闇から少し現実に引き戻してくれた。
愛「…じにたい…ぃ。」
結心「水死体はどんなに美人でもブスになるぞ。」
愛「ブず…でも、いいです…っ。」
結心「愛はそんなに死にたいの?」
愛「ぁい…っ、ぜんぶ、やです…。」
結心「神様に生きろって言われたら生きるか…?」
愛「…えぇ?」
と、愛は朦朧とし始めた目で葉星を見上げた。
結心「“
そう言って葉星は愛に俺をしっかり抱えさせ、自分は愛をお姫様抱っこをして暖かいと感じる現実まで戻るとおいてきたシャツとブレザーに愛を着替えさせてくれた。
結心「さみぃ…な…。とりあえず、近くの分家に行くか。」
と、葉星はいつもより重くなった俺と愛をおぶってどこかに向かった。
環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様
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