無愛想レベル100の彼女、裏垢でめちゃくちゃデレてたことについて

私犀ペナ

告白

 俺は今、今世紀最大の緊張に襲われていた。


 中学卒業の今日、長かった卒業式を終え、俺は好きな子を屋上の扉前へと連れ出した。

 扉の隙間から風が吹いて、少し肌寒い。

 そして俺の目の前には、中学3年間ずっと好きだった同級生──小糸蓮子こいとれんこという女の子が立っている。


 黒髪短髪で、毛先がふわりと曲がっていて、彼女の小さな顔を包み込んでいる。

 小柄な体躯に反して、中学生とは思えない胸の大きさ。


 ──彼女はよくモテる。


 俺が今の今まで、こうして屋上の手前扉で2人きりになれなかったのは、気がつけばいつも、彼氏という存在があったからだ。


 月を変えるごと、知らない男が隣にいた。


 そんな彼女には、ある暗い噂があった。


 俺が友達に小糸のことが好きだと打ち明けた時、その友達が顔を顰めて言ったこと。


『あいつ、誰とでも付き合うって噂だぜ、まぁ、あんま長続きしないらしいけど。やるだけならいいんじゃない? 俺は絶対に無理、浮気されるに決まってるし』


 俺はそれを聞いて、不思議と好奇心が勝ったのを覚えている。

 本当に誰とでも付き合うのか、長続きしないとはどういうことなのか、噂の真意を確かめたくなった。


 そして、今。


 本当なら屋上で告白したかったのだが、生憎、鍵が掛かっている。かといって誰もいないところと考えると、ここしか思いつかなかった。


 小糸は少し目を細めて、右耳を出すように、さらさらな髪の毛をかき上げた。


 俺は小糸のそんな仕草をただ見つめるだけで、なかなか言い出せないでいた。

 断られたらどうしようとか、今さらそんなことを考えてしまって、好きですって言うだけなのに、臆病だなと、自分を卑下したくなる。


 卒業すれば別々の高校へ通うことになるんだから、ここで言わなければ、と奮い立たせる。それに、こうして連れ出したんだ、小糸だって薄々は気づいているはずだし、後戻りなんてするつもりもない。


 俺が何も言わないことで、沈黙が続く。

 それでも小糸は口を開く素振りもなく、かといって気まずそうにするでもなく、ただ髪の毛を弄っていた。

 その仕草が可愛くて、俺は頬が熱くなるのを感じた。どんな噂があろうと、小糸のことが好きだ。


 断られたら立ち直れないかもしれないけど、それ以上に、何もしなかったら絶対に後悔する。

 俺は意を決して、喉元につっかえていた言葉を吐き出す。


「……好きです! 俺とっ、良かったら付き合ってください!」


 そう叫び、思いっきり頭を下げて手を伸ばす。

 視界に映るのは冷たそうな床で、ほこりがよく見える。


 心臓がバクバク鳴っているのがよく聞え、この時間が長く、永遠に続くようなそんな気さえした。


 すると、伸ばした手が柔らかくて温かな感触に包まれた。

 まさかと思い顔を上げると、小糸の手が、俺の手を握っていることに気がついた。

 そして、小糸は口を開く。


「いいよ」


 淡々とした一言だった。

 一方の俺は手汗がすごかった。体が火照って、肌寒い感覚なんてどこかへ吹き飛ぶほど、興奮した。


「でも……」


 小糸は握っていた手をそっと離した。

 

 でも、何だ……? 


 小糸の言おうとしていることが全くわからないまま、ほんの少しの嫌な予感に俺は心の中で身構える。

 ふわりとした毛先を指先で弄りながら、小糸は告げる。


「……私、あんまり好きとかないから、それでもいいなら」

「え……う、うん」


 一瞬、俺は言葉の意味が分からなかった。

 反射的に頷いてから考えても、やっぱりわからないまま。


 それからのこと、高校生になった俺は、彼女の不愛想ぶりを知ることになる。

 


 


 


 


 

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