夕実②
夕実の母親は主婦だ。けれど、絵本作家でもある。ものすごいベストセラー作家というわけではないけれど、元々絵本が好きだった母は趣味の延長のような感じで、のんびりと絵本を作っているらしい。今までに何冊か出版している。
そんな母の趣味やら仕事やらで、夕実の家には母のものだけでなく、たくさんの絵本があった。そんな中、夕実は自然と絵本だけでなく、本が好きになった。物語を読むのが大好きだった。
夕実の通っていた小学校の隣には小さな図書館があった。のどかな田舎であるこの町の図書館は、図書館と言いつつも、同じ建物の中に役場なども入っていて、誰でも自由に使えるテーブルやイスが並んだ休憩スペースや貸し会議室、カルチャースクールなどの教室やそこで作った作品を展示するスペースなどもあった。小学校の隣の立地ということもあり、放課後は図書館や、休憩スペースにはたくさんの子どもたちが集まっていた。
図書館には佐藤さんという、小柄で白髪交じりのおばさんがいた。町で運営している小さな図書館だったから、おそらくは町の職員かなにかだったのだろうけれと、幼い夕実にはよくわからなかった。ただ、佐藤さんは"佐藤さん"という存在で、物知りで何でも教えてくれたし、嬉しかったことを話すと一緒に喜んでくれ、悲しいことは一緒に悲しんでくれる。何か悪さをした子どもがいるときちんと叱ってくれた。時々、本の読み聞かせをしてくれたり、紙芝居をしてくれたこともある。戦争についてたくさんのことを話して教えてくれたりもした。
図書館ではあったけれど、静かに本を読んだり調べものをしたりするだけでなく、そこにある本でなぞなぞ大会が始まったり心理テストをしたり。子どもがわいわいと騒いでいても注意されることもなかったから、学校が終わってから大勢の子どもたちが図書館に集まっていた。
小さな町の図書館だから、隣の市の大きな市立図書館に比べたら本の数は少なかったけれど、たくさんの物語に出会えて、何でも教えてくれて、一緒に笑ってくれる佐藤さんがいるその場所が、夕実は大好きだった。
放課後は毎日のように通った。まずは休憩スペースで宿題を終わらせて、それから、閉館時間の17時まで本を読んだ。時には友人とお喋りをしたり、佐藤さんとお話をしたりしながら。
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