第66話

「ねぇ、兄さん。婚約を前提に友人にって……何それ。聞いた事ないんだけど……」


シルヴィは心底呆れた様に、リュシアンを見ていた。かなり引いているのが分かる。


「し、仕方がないだろう……これでも、私なりに勇気を振り絞ったんだ……」


格好が悪い。そんな事は分かっている。だが、これでもかなり頑張った。本来は男らしく率直に「私の妻になって欲しい」「私には君が必要だ」くらいは言いたかった。


だがそれは自分には流石に無理だと思い「婚約をしてくれないか」で妥協する予定だったが……やはりそれも無理だった……。

最終的に出た言葉は「婚約を前提に友人にって欲しい」だった……実に情けない。我ながらシルヴィが引くのが分かる。


しかも結果……リディアは「友人でしたら」と返答した。これはもうやはり玉砕したと言う事だろうか⁉︎……いや、そんな事は……いや、しかし。


「兄さん、また振られたのね」


シルヴィに事の顛末を話すと、追い討ちを掛けるようにそう言われた。やはりそうなのか……⁉︎


「ゔっ、ち、違う!今回は断じて振られてなどいない!リディアは友人になってくれると言ってくれたんだ」


「だから、それは友人なら、いいですよって事だからね」


シルヴィは大きなため息を吐く。不甲斐ない兄に呆れている様子だ。


「そうかも知れない……だが、私はやはり諦められない。いや、諦めないと決めたんだ」


リディアに一度振られてから、それはもう落ち込んだ。酒に弱いにも関わらず、日々浴びる様に呑んだくれた。そんな中、きっぱり諦めようかとも思ったのだが……やはり無理だった。


彼女のあの笑顔を自分のモノに出来たらどんなに幸せかと、思ってしまう。あの小柄で頼りなく、少し抜けていて鈍感な所も愛おしく感じる。自分の腕で抱き締め口付けをする。そして、そのままベッドに二人で沈み甘い夜を過ごす……想像しただけで、この上ない至福を感じる。


諦める所か気が付けば、もしもリディアと自分が結ばれたら……などといつの間にかそんな思考に至っていた。


「兄さん……流石に度を越すのはやめてよね。幾ら兄さんでも、リディアちゃんを無理矢理手籠にとかしたら、赦さないから」


妹から釘を刺される。その目は冗談ではなく真剣そのものだった。


「分かっているよ。シルヴィが彼女を大切に思うように、私だって彼女を大切思う気持ちは変わらない。無理強いをするつもりはない。だから大丈夫だ。退き際は十分心得ている。シルヴィ、兄を信じてもう少し、見守っていて欲しい」


「分かったわ……でも、約束よ?」


多少不満気にはしてるが、シルヴィは素直に頷いてくれた。


「あぁ、私は何時だって彼女幸せを願っているからね」


リュシアンは、心からそう願った。


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