第34話
狭いベッドのかなりギリギリの端に身体を寄せて、リディアはディオンに背を向けていた。もうこれ以上は行けない……多分、いや絶対落ちる。
「そんなに離れなくてもいいのに。なんか傷付くなぁ」
嘘だ。声が如何にも愉しいと言わんばかりにしか聞こえない。
「煩い……黙って、寝てよ」
背を向けたままリディアは返事を返して、目をキツく閉じた。それ以降ディオンから何を言われても完全に黙りを決め込む。反応がなくなったリディアに、諦めたのか暫くすると背中越しに微かな寝息が聞こえてきた。
リディアはため息を吐く。全く眠れない……。
静かに身体を傾け、ディオンを覗き見た。よく寝ている……いい気なものだ、人の気も知らないで。そのまま暫くリディアは、ディオンの寝顔を眺めていた。
「……」
「ん……」
口を少し開き、起きている時より幼く見える。
「ふふ、可愛い……」
やはり、寝ている時の兄は可愛く見える。普段との違いが激しい故に、余計なのかも知れない。あどけなさを感じる寝顔と幼い頃の兄が、不意に重なって見えた。リディアの口元が緩む。
頬を人差し指で、ツンツンと少し強めに押してやると、眉根を寄せ不機嫌そうな表情になる。普段の嫌味の仕返しだ。
「⁉︎」
優越感を噛み締めていると急に腕を掴まれた。リディアの心臓と身体が跳ねる。起こしてしまった……と思ったが杞憂だった。どうやらまだ兄は夢の中の様だ。
ちょ、ちょっとっ……動かないでよ。
掴まれた腕を引き寄せられて、気付けばリディアはディオンの腕の中に収まってしまった……。
何、この状況……最悪なんだけど。
いつかのディオンが、酒に酔った時の事を思い出す。これはまた、朝起きたら逆ギレされるやつだ。リディアは、もがいて腕の中から抜け出そうとするが、逆に抱き締められていた腕の力が強まってしまう。
何なのよっ一体……む、無理だ……諦めよう……。
仕方がないので、リディアは大人しくそのままで寝る事にする。
身体がおかしい……。
次第に全身が熱くなってきた。触れている部分は、更に溶けそうな程に、熱い……。
ふとディオンに口付けをされた時の事が、蘇り身悶える。どうしてこんな風になるのか、リディアには分からない。だが、酷く喉が渇いている感覚を感じた。
リディアはディオンの胸に顔を押し当て目をキツく瞑り、ひたすらに耐えた。朝が来るのをただ待つしかない。
私、また風邪引いたかも……。
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