第6話

「さてと、また明日から仕事ね」


リディアはザラールと婚約前までは、城で王妃付きの通いの侍女として働いていたのだ。自邸戻って来た故、また明日から侍女として城で働く事になった。


「リディア様、こちらに準備してございます」


普段リディアの世話をしてくれている侍女のハンナはクローゼットを開けて、リディアの侍女服を取り出す。


「ありがとう。でも、何だか半年振りだから心配だわ」


リディアは、お世話にも器用ではない。侍女の仕事も慣れて覚えるまでにえらく苦労をした。この半年、別邸ではお茶をしながら読書をしたりと、兎に角だらけて過ごしていた。婚約者は帰って来ないし、だが何故か屋敷からは外出しない様に言いつけられていて、ほぼ軟禁状態。たまに趣味を兼ねてストレス発散の為に剣を振ったりしていた。まあ、それが悪かった。


ザラールがたまたま帰って来ていて、目が合った。リディアはにっこり笑って「ザラール様、手合わせ致しますか?」と誘ってみた。曲がりなりにも婚約者なのだから、たまには何か交流でもしようと考えたのだが……。


『弱っ……あら、やだ、大丈夫ですか?ザラール様』


小声だったが思わず本音が洩れた。それ程彼は弱かった。確か白騎士団に所属していた記憶があった筈なのに……。


尻餅を付き放心状態のザラール。多分リディアの本音は聞かれていないだろう、と胸を撫で下ろす。だが、かなり空気が気まずい。黙り込む彼からの反応を待っていると……ザラールは徐に立ち上がり「この、ブスが‼︎」と言って走り去って行った。


『なんでブス……⁉︎。ブスって……関係ないでしょうが⁉︎』


関係ないと頭では理解していても、少し傷ついた。


思えば悪口ばかり言われていた様な……。



「リディア様、大丈夫ですか」


ハンナの声にリディアは我に返った。


「大丈夫、大丈夫。ちょっと嫌な事思い出しただけよ」


「嫌な事、ですか……」


心配そうに眉根を寄せるハンナを見て、本当にいい子だわ!と思った。いい子と言っても彼女の方がひと回り以上歳上だが。


「昔話よ」


まあ、僅か数ヶ月前の話だが。最早過ぎ去った過去だ。


「ハンナ。準備はこれくらいにして、私もう寝るわ。明日は早いし、寝坊なんてしたら大変だもの」


侍女の朝は早い。通いなので常駐している他の侍女よりは遅いが、まだ空が薄暗い中屋敷を出なくては間に合わない。そもそも城までは少し距離があるのだから余計にだ。


だが、早めに寝て明日に備えれば心配ない。

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