【完結】龍面公子 〜暴虎馮河伝・続編〜

知己

序章

 吐く息すらも凍りつくような極寒の空気の中、上半身をあらわにした数十人の男たち————否、鏡の如き氷の壁面が一人の男を幾重にも映し出していた。

 

 

 神州しんしゅうの北方・玄州げんしゅうの最北端には天然の氷穴がいくつも口を開けていたが、眼を開けていられぬほどの猛烈な吹雪の雪原を進み、好んで足を踏み入れる者はいない。特別な事情のある者を除いて————。

 

 

 一心不乱に両腕を何度も旋回させている男の額からは絶えず蒸気が上がっていたが、噴き出したそばから小さな氷の粒となってパラパラと足元へ落ちていった。どうやら男は内功の鍛錬をしているようである。

 

 身体つきから男は三十代と察せられたが、その顔に刻まれた深いシワからは正確な年齢は読み取れない。

 

 その時、氷穴の天井から垂れ下がる氷柱つららが数本、男の頭上へ槍のように襲い掛かった。

 

 しかし、男は頭上に迫る氷柱に気付く風もなく鍛錬に集中している。自然に生み出された神秘的な槍の穂先が男の身体を貫くと思われた次の瞬間、氷柱は男の身体に触れる寸前で丸みを帯びて、そのまま滑り落ちて粉々に砕けてしまった。

 

 足元で砕けた氷柱の残骸を無言で眺めていた男だったが、数秒の後、その口の端が満足そうに持ち上がった。

 

「…………ついに、ついに成ったぞ、『寒氷真氣かんひょうしんき』……‼︎」

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