第18話 『ろってん・うぃんぐす!』

「なぁ…卯月」

「あぁ…」

(伽堂の死を嘆いている暇はない。完全に全滅の危機だ…迂闊だった!今私達はフルメンバーの陣営と襲撃者達に挟み撃ちにされている状況。間違いなく逃走すべき…だが容易くできるものなのか?奴らの契術は完全にブラックボックスだ。襲撃者方面から透過で逃げる!これだ。)

「おんぶさせてくれ」

「…良いっすけど…その言い方はどうかと思いますよ?」

 車田が卯月の上に負ぶさる。

 そして、超人的な速度で道を横切っていく。

(あの男の契術は身体強化か…?)

「根岸!」

「ゴロゴロ!」

 卯月と車田に電撃が放たれる。

(透過できるものは一つまでかもしれません。もしそうなら、壁を通り抜けるのと同タイミングで電撃を放てば…)

 次の瞬間、米沢が割って入る。

「無視すんなよ」

 電撃は彼に当たった…いや当たる寸前で跳ね返り根岸を襲う。

「ぐぉぉぉぉっ!」

 根岸は部分的には回避できたのでなんとか起き上がることはできたが、体はかなり痺れていた。

「根岸ッ!」

 その間に卯月達は壁の外に出ていく。

「なぁ逃して良かったんか?」

「ミッションは1個ずつクリアするもんだろ。焦らず、着実に行く。そのために4日目まで待ったんじゃねぇか。」

「それにしてもあの壁…どうしましょうか。」

 龍崎が問いかける。

「火力の高い米沢さんに任せればいいと思います。」

「その通り!」

(…正直これは好都合だ。透過使いがいない。私の壁を破れる者はいるとは思えない。もし破られたら…)

「でもまずは…」

 米沢は根岸に向かっていく。

「させるか!」

 珈砕がナイフを投げる。

 ナイフは空中で、突如巨大化した。

(流石にこの距離じゃ避けられ…)

 珈砕の予想とは裏腹に、ナイフはいとも簡単にあらぬ方向に飛ばされた。

 ならばと珈砕はナイフを杉達の方向に投げる。

 ─こちらも、龍崎に凍らされて止められた。

 突如、米沢の足が止まる。

「…この距離で行くぜ」

 彼が取り出したのはパチンコ玉だ。

(遠距離攻撃でも仕掛けるのですか…?だがこちらもそれはあるんですよ!さっきは跳ね返されましたが、方向の読めない爆発なら跳ね返せないはず!)

「ドカ…」

 ズキュゥゥゥンッ!

「グブゥァッ!」

 パチンコ玉が凄まじい勢いで根岸に刺さる。

「ばーん」

 パチンコ玉が、根岸の体内で爆発した。

「ね、根岸!?」

「なぁなぁうちらにも遊ばせてぇや?ええやろ?」

「いいぞ!男の方は龍崎、女の方は宮藤に任せる。あ、そうそう…」

(根岸がやられた…流石に分が悪い、撤退するべ…)

 米沢がとんでもないスピードで犬神に近づく。

 そして、思い切り衝撃波を放つ。

 ─壁が、破壊された。

「邪魔なもんはお前らの火力じゃ壊せないからなぁ。俺がやっとくぞ。」

「逃げられないってことか…珈砕、下がっていろ。」

「…何もできないのか、俺様は」

「今は、だ」

 珈砕はビルの中に隠れる。

「君達四人全員、この私、犬神瀞峡が始末する。」

「犬神だと!あいつは確か…凶悪殺人鬼の指名手配犯だ!」

「悪のない世界のため、犠牲になって貰うぞ!」

 犬神の姿が変わる。

 両手に鎌のようなものが生まれ、体には黒い翼が生えていた。

「こいつ…間違いない!俺より先に進んでやがる!ふざけんな!」

「契術や加護の先の段階に、私は到達したのでね。尤も、この形態は消耗が大きいのだが。まぁ関係ない。君たちは消せる。」

 犬神が猛烈な勢いで米沢…は無視して3人に襲いかかる。

 宮藤は袋を一つ取り出して、血を自身の周囲に出す。

 龍崎が慌てて凍らせようとするが、氷は彼に触れた瞬間腐り落ちていった。

「氷って腐るんですか!?」

「腐らん!そもそも概念を押し付けてると見たぞ!」

 犬神が左の鎌で3人を切りつける。

 宮藤は容易く躱したが、ただの女子高生の龍崎が避けられるはずもなかった。

「あっ…」

 咄嗟に杉が龍崎を突き飛ばす。

「杉さん!」

「だ、大じょ…ぐっ、ぶぅぁぁぁぁぁ!!!!」

 肘を切られた瞬間、杉の体が腐り落ちていく。

 彼が腐敗した死体に変わるのは、一瞬だった。

「まずは一人、誅殺完了。」

「嫌な死に方想像したことはあるけど…その中でもトップクラスやで…!」

「さっきからずっとパチンコ玉撃ってるが、やっぱ壁で相殺されちまうのはキツイな。新しい壁も即座にできる、ハハッ…唆るぜ。」

「杉さん、ありがとうございます!おかげでもっとこのスリルを楽しめます!」

「異常者共め…やはり世界秩序のためにも、ここで始末するべし!」








「…そろそろ降りるぞ」

 戦いから少し離れたところで、車田が卯月から降りる。

「あぁ、二人が勝手に潰し合ってくれてラッキーだったな。とりあえず身を隠せ…」

「あ、そこのおにーさん達!ちょっといいですか?」

「「!?」」

 声のする方を向くと、そこには二人の女がいた。

 ─十文字と倭島だ。

「降参してくれないかな?私なら痛いのが嫌とかそんなの気にする必要ないからさぁ…、ね?」

「…十文字さんに逆らう奴は殺す。」

「やれやれ、禍福は糾える縄の如しとはよく言ったものだ。車田、闘うか?」

「…そろそろやるか。流石に逃げ癖はつけたくない」

「だ、そうだが?」

「えー、いいじゃんいいじゃん。ねぇねぇ、いいから一緒にさぁ、




 気持ちいいコト、しよ?」

 残り20人

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る