かたすとろふぃっく・かぷりしお!

天蓋

第1話 『げーむ・すたーと!』


 そこには、ただ白い、白い、部屋があった。

壁に掛けられたモニターを除いては。

この部屋には主がいる。赤く、尖った角を持つ男だ。鬼…と言われたらそう言うべきなのだろう。

「…待ちあぐんだぞ」

笑みと共にこぼした言葉は、けたたましい声に遮られた。

「▫オ●▽繝ウ!遂にこの時が来ましたわね!」

壁から入ってきたのは黒のメイド服に身を包んでいる、金髪の女性。肌は白く、透き通っていた。

「サタンでいい…今回ではそう名乗らせてもらう。」

「まぁ、下界に随分興味を持っていらっしゃるのですね。まぁ私も人のことは言えませんが。」

「ふん…さっさと始めるぞ。世界が終わるまで間もないからな。」

「こればっかりは仕方ありませんしね。選ばれなかった方はご愁傷さまですわ。ところで…あなたはもう『魔王』はお決めになって?」

「今決めた所だ。良い『憤怒』の持ち主だぞ。」

「なるほど。でもこちらも凄まじい『虚飾』の渇望を持ってますわ。意外性はあるかもしれませんが。」

モニターが光りだす。

「っと…そろそろですわね。それではお先に失礼。」

そう言っては、モニターの中に消えていった。

「…俺も行くか。見立て通りなら良いが…」

程なくして、サタンも消えていった。








「…?」

男は確かに眠った筈だった。だが目を覚ますと、そこは金色の部屋だった。もっと不可解なことには、見たこともないメイド服の女がいたことである。

「ごきげんよう、卯月太陽様。私はベリアル。そしてここは夢…貴方の精神世界ですわ。おめでとうございます。貴方は『虚飾の魔王』に選定されましたわ。」

卯月は訝しげにベリアルを見た後、納得した。

(なんだ…変なゆ)

「夢だと思われますならそれで結構。目覚めればどうせ知ることになりますが。だが話だけは聴いてもよろしくはございませんか?」

どうせ夢だろう。そう思っていることは変わらない。だがこの話に少し興味があるのも事実だった。

(目覚めるまでの暇潰しなら良いか…)

「わかった。話を聞こう。」

「ありがとうございます。それでは説明致しますね。」

ベリアルは優しげに微笑んだ。

「まず単刀直入に申し上げますが…世界は一週間以内に滅亡致します。」

俄には信じがたい内容…夢だと確信した。

「そこで新たな世界の姿を決定するために、9人の上位者達がそれぞれ見つけた人間から1人の『魔王』と3人の『眷属』を選定し、それぞれ戦わせる。

勝利条件は他陣営の全滅。ちなみに一週間以内に勝利陣営が出ない場合はゲームオーバー。この世界は廃棄処分となりますわ。」

「随分雑な世界の管理だな。」

「まぁ別の方法で決めればいいだけですので。住民達は正直どうでもいいですわ。」

愛想は良かったが、卯月は彼女にドライな印象を持った。

「続けますわね。『眷属』は一人に一つずつ、契術を使えます。契術は…まぁ異能のようなものですわね。炎を操ったり、バリアを貼ったり…人によって様々ですわ。

『魔王』も契術を使えますが、こちらは選定してる悪魔の加護を使えますわ。まぁ契術がもう一つあるようなものです。名前はそこまで気にしなくていいですわ。ただ魔王が倒れれば、眷属は皆死にますわ。」

「なるほど。眷属はどこにいるんだ?」

「魔王は予め眷属の居場所を認識しています。朝になればわかるでしょう。」

「なるほど。もう一つ質問だ。この戦いに勝利した時のメリットはあるのか?」

「えぇ、勝利した陣営の魔王は、世界を自由に決定する権限を手に入れますわ。そして魔王と眷属は契術や加護を持ち越したまま、次の世界に行けます。」

一瞬卯月がビクッとしたのをベリアルは見逃さなかった。なので勢いのまままくし立てる。

「例えどんな狂った望みでも、叶えることができますわ。もちろん…貴方の望みも。」

「─本当ならいいけどな。」

信じたくなった。機会はないと半分諦めていた。しかし本当なら世界は変わる。自分が勝てば、より良く変わるのは間違いない。そんなことを考えると、興奮が止まらなくなる。

「素晴らしいでしょう?さぁ、私と契約致しましょう?」

「あぁ、わかった」

即答したのには2つ理由があった。

一つは自身の願いが叶う選択肢を示されたから。それを叶えるためならば、彼はどんなリスクも背負う覚悟をしていた。

もう一つは、半分夢だと高を括っていたからである。だがどちらにせよその答えは、ベリアルを喜ばせた。

「素晴らしいご決断ですわ。それでは…これから眷属の方にも話をつけてきますわ。安心なさってください。貴方が目覚める頃に戻りますので…それまで、ごきげんよう。」

そう言われた瞬間、急に周囲がぼやけていく。意識が離れていく。

離れて…離れて…暗闇に落ちていった。








 ジリリリリリリ!

けたたましい音とともに目が覚める。それを止めるために手を伸ばし…

「おいおい、マジかよ…」

痣があった。冠のような形をした、金色の痣だった。卯月は静かにだが、確かに驚いた。

「フフ、夢ではなかったでしょう?」

声が聞こえる。

「でも、良いではありませんか。貴方には悲願があるのでしょう?」

「─そうだな。」

頭の中に地図が見える。3つの点は、きっと眷属の居場所だろう。ベッドから起き上がり、ニヤリと笑った。

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